きーちゃんが、泣いていた。
初めての“負け”はやっぱり辛いモノだったらしくて。
そんなきーちゃんがあたしを見ていた事にも気付いていたけど、あたしはどうしてもきーちゃんに話し掛ける事は出来なかった。

「ありがとうございました!!」

両校の挨拶も終わったらしく先に帰ろうと踵を返せば右手を掴まれ進めなかった。誰だと振り返ればそこにいたのは、黒ちゃん。

「…黒ちゃん?」

「遊木さん、あの…」

「試合おつかれ、怪我は大丈夫?」

「はい、おかげさまで。…それより、お願いがあるんです」

「お願い?」

首をかしげてみせれば、黒ちゃんは小さく頷いた。

「黄瀬君の様子を見てきてくれませんか?」

「……あたしより、黒ちゃんが行ったらどう?」

「僕が行っても嫌味にしかなりません。それに、気づいていたでしょう?黄瀬君が見ていたのは遊木さんです」

まさか黒ちゃんが見ていたとは。用事があると言ってもこのタイミングじゃすぐにバレてしまうだろうし。八方塞がってしまった。

「………場所は?」

「体育館右側の水飲み場にいるそうです」

「絶対よね?」

「さっき海常の主将さんに聞きましたので」

「そう…」

そこまでお膳立てされてるんじゃ、行かない訳にはいかない。小さくため息を吐きながらあたしは方向を変えると黒ちゃんの手をやんわりと離した。

「行って来るね」

「はい。………すいません」

頭を下げる黒ちゃんに思わず苦笑する。謝るくらいなら頼まないで欲しいし、頼んだ後なら謝らないで欲しい。
なんだかんだ、黒ちゃんも不器用なのよね。


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