勢いよく啖呵を切ってはいたけど、実際このメンバーでの試合経験一回目だし、火神という不純物質が入った上あいつのいない誠凛では点差を開けさせないのがやっとというところ。リコもそれをわかってはいるのか唇を噛み締めゲームの行く末を見ているようだった。
「…前半のハイペースで策とか仕掛けるような体力が残ってないのよ。せめて黒子君がいてくれたら…」
その言葉に反応したかのように今の今まで意識を失って動く気配すら見せていなかった黒ちゃんの指がピクリと動いた。次いで、ゆっくりと瞼が開き、
「…わかりました」
「え?」
上半身が起き上がり、右手で目をこすった黒ちゃんは当たり前のように言った。
「おはようございます。…じゃ、行ってきます」
フラフラしながらオフィシャルの方へ歩いて行こうとする黒ちゃんを先回りして慌てたようにリコが止める。そうすれば黒ちゃんは少し困ったような表情を作り。
「今行けってカントクが…」
「言ってない!たらればがもれただけ!」
「…じゃ出ます」
「オイ!」
リコが慌てるのも無理はない。出血は少ないと言っても傷は思ったより大きかった。止血は完璧だと思うけど激しい運動をすれば開くともわかったものじゃないし。…でも。
「無理をしないこと、すぐに引っ込められたって文句言わないこと。あと、出るからには絶対勝って戻りなさいよ、黒ちゃん」
「遊木…!?」
有り得ないとでも言いたそうな表情だけど、別に有り得ない話でもない。無理はしない(するだろうけど)と約束させて、引っ込められてもってとこまで保険かけてるんだし。
「いいじゃない、リコ。どうせ最終Qなんだし、危ないと判断したらソッコー病院。あたしもベンチいるから」
「お願いします、カントク。…それに、約束しました。火神君の影になると」
あたしと黒ちゃんから言われてしまってはどうにも反論のしようがないらしいリコは一瞬絶句し、そうしてため息を吐いたかと思えば覚悟を決めたかのようにいつものカントクの表情に戻った。
「わかったわ…!ただし、ちょっとでも危ないと思ったらスグ交代します!」
勝ちたいなら、その選択で合ってると思うわ。
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