―――― ダンッ!!!


何かが落ちて来たような大きな音に驚いてそっちを向けば、そこにいたのは遊木だった。

「…遊木!?ってかいたの!?」

「いたわよ。それより黒ちゃんの怪我見せなさい。あと救急箱の用意」

危ない事をしたのに対し怒る暇すら与えず淡々と告げられる言葉に少々納得しないながらもそのままの言葉で1年の子に指示を出す。

「黒ちゃん、大丈夫?」

「遊木さん…。大丈夫です。まだまだ試合はこれからで…」

…しょう…と力なく言いながら倒れる黒子君に日向君が何か叫んでいるけどそれさえ気にしないかのように遊木は当たり前のように黒子君を引きずってベンチまで戻って…引きずって!?やりすぎよ!

「とりあえず綺麗に血を拭いてあげて。あたしちょっときーちゃんに用事あるから」

「あ、はい…」

言いながら遊木が持っていたのは爪切り。…何に使うのか少し心配なのはこの際スルーしましょ。ウチの戦力に傷付けてくれちゃってまったく。

「きーちゃん、指出して」

「っ遊木センパイ…!」

息を詰まらせた黄瀬君の手を有無を言わせず取って、遊木はため息をついた。

「中学の頃から言ってるでしょ?モデルかもしれないけど、バスケをする人間ならもしもの事を考えて、せめて試合の時くらいは爪切るの」

「スイマセ、ん」

「ほら、これ貸してあげるから一分以内に全部切ってきなさい」

「はいっス!」

さらさらと流れる黒髪を耳にかけながら遊木は自分達のベンチに戻り必死に爪を切り始めた黄瀬君を見てまたため息。そうして今度は海常の4番に目を向けた。

「すいません、勝手な事しまくって」

「いや、こっちこそ悪ぃな。まさかアイツがそんな基本的な事も出来てねぇ奴とは思ってなかったぜ。…終わったらシバいとく」

「よろしく頼みます。…じゃ、あたしはあっち戻りますから」

小さく笑った遊木に海常の4番が見惚れていたって事、アタシはちゃんと見てたわ。確かに遊木は可愛い。けど、どこぞの馬の骨かわかんない奴にはやらないわよ!!(黄瀬君も含め)

「…なんかカントク色々ほどばしってない?」

「言うなコガ。触れちゃいけねぇ時もあんだよ」

戻って来た遊木にリコ、と名前を呼ばれてやっと我に返る。

「カントクとしての判断はどうなの?」

突如現実に戻され、テキパキと治療していく遊木に思わず苦い顔を作っていた。

「黒子君はもう出せないわ。残りのメンバーでやれる事やるしかないでしょ!」

皆が(特に1年が)有り得ないとでも言いたいような表情をしたけどスルー。

「オフェンスは2年生主体で行こう!まだ第2Qだけど離されるわけにはいかないわ。早いけど【勝負所】よ、日向君!」

「…おー」

「黄瀬君に返されるから火神君オフェンス禁止!ディフェンスに専念して。全神経注いで黄瀬君の得点を少しでも抑えて!」

「そんな…それで大丈夫なんで…すか?」

「大丈夫だって、ちっとは信じろ!」

「でも……」

日向君の笑顔が一瞬にして切り替わった。

「大丈夫だっつってんだろダァホ!たまにはちゃんと先輩の言うこと聞けや、殺すぞ!」

…悪いけど、誠凛がここで終わりなんて思ってもらっちゃ困るのよね。

「行くぞ!」


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