「………」

一瞬だった。対峙したのはわずか数秒。フェイクに引っ掛かった訳でもないのに一歩も動けずに火神は抜き去られていた。まぁ、そうなるよね。しかし抜かれるなんて大前提だ。勿論誠凛はヘルプが入る。それも、二人。

「…足りないのだよ」

無意識だろう、ぽつりと呟いたみーくんに頷く。青ちゃんはノッていたスピードから一転、ピタリとストップすると水戸部と土田のブロックをものともせずにシュートを放つ。それも、フェイダウェイなんて。

「運動において速さとは最高速だけではない。0→Maxへの加速力とMax→0への減速力。すなわち敏捷性だが、青峰のそれはオレ達の中でもずば抜けている」

「言っちゃ悪いスけど、オレ等ですら反応するのがやっとのアレに、誠凛が反応できるとは思えないっス」

きーちゃんの発言はあんまりに聞こえるが、そうでもない。キセキと呼ばれるこの子達ですら、3年間共にバスケをやってきて反応しかできないのだ。桐皇にとって黒ちゃんがそうであったように、誠凛が今日初めて目の当たりにする青ちゃんのチェンジオブペースに対応出来るはずがない。……ない、のに。どうして火神がチェックを入れられるの?確かに一瞬遅れでかすりもしなかったけど、あのタイミングで跳ぶと言うことは。

「この短時間で青ちゃんに順応してきてる…?」

「だーから言ったじゃないスか」

まるで自分のことのようにきーちゃんがあたしにウインクを飛ばしてくる。すっごい嬉しそうだ。

「む、」

青ちゃんのシュートが入った直後、日向がハーフラインをぶっちぎるロングパスを投げる。その先にはさっきシュートチェックに入ったはずの火神。その切り替えの早さは素晴らしい。しっかりとパスを取った火神はシュートに踏み切るが、追い付いた青ちゃんに止められた。

「…青ちゃんの速さはいつものことだけど、今の火神の踏み切り位置見た?」

「フリースローライン…。まさかレーンアップでもするつもりだったのでしょうか」

「わかんない」

「……てゆーか、青峰っち完全にスイッチ切り替わったっスよ」

剣呑なきーちゃんの視線の先には、さっきまでの型にはまったようなバスケではなく、変幻自在にボールを操る青ちゃんの姿があった。



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