突然流れを失った空気に戸惑うのは馨。しかしその原因を作ったのは勿論彼女であり、謙也が沈黙…と言うより驚きと恐怖に何も言えないのも仕方がないと言えるのかもしれない。
…後輩に怯える先輩と言う図もなかなか滑稽なものではある。





火曜日、いつものお時間です。





沈黙を破ったのは、謙也だった。しかしその行動はきっと誰にも予想出来なかったであろうものであり、それは要するに馨にも予想出来なかったことである。

すんませんっしたぁぁぁ!!!

「ぇ、あ、はいっ!?」

彼は光の早さでパイプ椅子から立ち上がると音速を越えて頭を下げた。さすがは浪速のスピードスターと自称するだけはあり行動は素早い。

「いやな、ほんま知らんかったんや、馨ちゃんが財前の妹やなんて想像つかんやろ?馨ちゃんめっちゃえぇ子やし、財前と双子?ぅわー、ありえへん詐欺や…」

「や、あの、えっと…気にしないでください?光に言うつもりとか、全然あらへんので」

「ほんまに!?」

「ほんまです」

パッと瞳を輝かせて馨を見た謙也に、彼女は苦笑しながら頷いた。光が思わず敬語を忘れるのも仕方がないかもしれへん、と内心考える。彼はあぁ見えて案外礼儀を重んじる人間だ。特に上下関係においては他人に厳しい以上に自分に厳しいと言えるだろう。そんな彼が先輩に対して生意気な態度を取る、というのは珍しい話だが、謙也が相手なら本当に仕方のない気もする。現に馨でさえタメ口になりそうな勢いだ。

「よかったわ…ほんま財前に何か言われたらグッサリ来んねん。図星しかつかんっちゅーところがまた、癪に障るんやけどな」

「……なんや光が迷惑かけとるみたいで、すいません」

「べ、別に馨ちゃんが謝ることないんやで!?今言ったこと、忘れてくれへん?」

頭を掻きながら項垂れる謙也にそう言われ、頷こうとした馨だが少し考え付いたことがありあえて首を左右にふった。

「やっぱちゃんとしっっかり覚えさしてもらっときますわ」

「なんでやねん!」

「謙也さんの愚痴、あたしでえぇならこれからも聞きますよっちゅうことです」

にこ、と笑いかけ馨が言えば謙也は一度ぽかんとした表情を作り、そうしてその一瞬後には再び瞳を輝かせた。

「ほんまに!?」

「ほんまです。放送当番は一緒やし、週一でえぇなら聞かしてください」

「ほんなら、俺からお願いするわ。週一でえぇから愚痴聞いてくれへん?妹ちゃんにこないこと頼むんは変かもしれんけど、さすがに部員には愚痴れんねん。あいつ等みんな財前に情報回すんやで?クラスの奴等に言うたらいつの間にか白石が財前にチクりよるし…」

グチグチと言い出した謙也に表面上の笑顔は変えないが、馨は内心うわぁ…と心の底から同情した。

(光が優しいんはあたしにだけやって、気付いとったけど一番被害受けとる人がこないなるまでの毒舌て…。ほんま、謙也さんには申し訳ないわぁ)

「せやけど、なんや馨ちゃんは信用出来る気ぃすんねん。雰囲気がなんか、安心するんやろなぁ…」

「そ、れはどうも…」

聞き慣れない言葉に思わず顔を俯かせる。言わずもがな朱の走った顔を謙也に見せない為であるのだが、鈍感な謙也は気付かずに財前の愚痴半分、馨をべた褒め半分の言葉をつらつらと並べた。こういうところがスピードスターなんてただのギャグで、実はスロースターなのではないのかと噂される由縁であると言うことをきっと本人は知らないのだろう。
そうして気付けば、昼休み終了の五分前だ。

「あ、謙也さん昼休み終わりみたいやありません?」

「ほんまや、CD切らな」

放送頼むで、と言われ馨はそれに頷いた。謙也がCDを取り出したのを見てマイクのスイッチを入れる(機械が古い為一緒にやると何故か全校舎のブレーカーが落ちるのだ)。ジーと独特の音が流れだして三秒、馨はゆっくりはっきり言葉を出した。

『お昼休み終了、五分前です。次の授業遅れたら理由なんて聞かずに一発ギャグかましてもらうで!ほんなら、スピードスターに負けん早さで教室戻りや。ま、本物のスピードスターは俺やけどな!!…それでは、お昼の放送を終わります』

何の躊躇いもなく文章をすべて読み終えた後に、馨は首を傾げて謙也を見た。彼はNice!!とでも言いたげの満面の笑みである。

「…これ、考えたの謙也さん…すよね?」

「おん、そやでー。こないこと言われたら、授業に遅れるような奴出らんと思わへん?」

天才やで俺、財前なんかに負けてへん!自信満々に言い切った謙也に、馨はとりあえず言いたかった。

「センスなさすぎやありません?」と。

そうして放課後の部活できっと自分にこれを言わせたことによりめったんめったんにやられるであろう馨に内心で合掌。そうして初めての当番の日は終わったのだった。

(ほんま哀れ、ちゅうか。光もちょっとは手加減してやりぃや…)





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駄文ごめなさっ



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