じゅろく
馨ちゃんなんでおるん!?あ、光のお弁当作ったさかい、届けに来たんです。財前の??はい、なんか昨日いきなり作ってって言われたんですよ。ざ…財前ばっかずるい!!は?これは俺の特権すわ。
火曜日、いつものお時間です。
ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めた謙也に光が冷笑を浴びせる。そんな光景に慣れ始めた馨は軽くスルーして白石と談笑。なかなかに謙也が哀れな光景だ。
「な、な、なんで財前ばっかぁぁぁ…」
「せやから、俺と馨やからに決まっとるやん」
「敬語忘れんなや!!」
「あーあーはいはい、すんません」
「死にさらせぇぇぇ」
若干泣きそうにまでなりはじめた謙也を尻目に光は最後の卵焼きを口の中へ。租借して飲み込み、手を合わせてから馨に笑いかける。
「上手かったで、おおきに」
「気にせんでえぇよ。最近光のこと放置しまくっとったから、色々話せてよかったし」
それは、多分今朝のことであろう。少しの時間ではあるがいつも違う時間帯を合わせて朝から顔を合わせるというのはそうそうないことである。そういうこともあり今日のお弁当作りは馨にとってとても楽しいことだった。
「俺もや。…また弁当作ってな」
「おん、あたしでえぇならいつでも」
双子ならではの仲の良さ。それは恋人同士の空気などではなく単にお互いのことを大切に思っているが故に生まれる空気で、白石はそれを理解しほほえましいとまで思っていたが、彼は違ったらしい。
「……………なんやねんこの空気」
ぼそりと呟かれ、三人の視線がそちらに向く。
「なんでそないな甘い空気が流れんねん羨ましいわぼけーーっっ!!!」
「はいはい、ちょぉ落ち着こうな謙也くん。そろそろ部活も再開するし」
「……ほな馨、俺腹ごなしせな午後練吐いてまうから早めに行くわ」
「せやったらあたしも…」
「馨ちゃんは昼休み終わるまでおったってや。行くで財前」
「…はい」
どことなく心配そうな顔で光が頷く。どうやら少しは謙也に気を使ったらしく、白石もそれに乗ってやったらしい。
「頑張ってな、光」
「おん。暗くなる前に帰るんやで、馨」
「はーい」
パタンと柔らかい音を立てて開いていた部室の扉が閉められる。いわゆる、密室に二人きりの状況。こんな状況で謙也が平常心を保てるはずがなかった。
「(なんで二人して出ていくねん白石と財前のあほっ!!!)ぉぉぉ俺も練習、行くさかいっ」
「謙也さん」
「な、なんでございましょう!!?」
「………ぇっと、とりあえずなんや大丈夫なんですか?」
本気で心配そうに首を傾げる馨に謙也はブンブンと首を取れるのではないかと思う程勢いよく上下に振る。
「大丈夫やで!!」
「…ならえぇんですけど。あの、」
「なんや?」
「お弁当…もしかして食べたかったんですか?」
恐る恐る。もしも自分の勘違いであったならばただの自意識過剰人間としか思えない発言であるが故、はっきりは言えなかったらしい。
「いやいやいやっ!そんなことあらへん…あらへ………あるけど」
本音が少しずつ漏れる理由は、純粋にお弁当が食べたいからだろう。欲望に忠実である。
「せやったら、作って来ましょうか?」
「っほんまに!!?」
「多分また光に作ると思うんで、一緒にでえぇなら」
「全っ然えぇよ!!」
謙也が即答すれば馨は少し照れたようにはにかんだ。その表情がいつもより可愛く、謙也のハートにドストライク☆だったらしい。さらに今の状況、密室に二人きり。これは言うしかない。やるなら今しかねぇ!!←
「…馨ちゃん」
「はい?」
「あんな、俺馨ちゃんのことs「ワイも弁当食いたぁぁぁい!!!」
「遠山くんっ?」
突如部室の扉が開き、金太郎が乱入。部室の前に千歳がいることから見て、多分彼が故意的にこのタイミングで金太郎を乱入させたのであろうことは容易に想像がつく。謙也はギリギリと歯ぎしりした。
(千歳の奴…)
「なーなー、ワイにも作って??ワイも食べたいねん!えぇやろー!?」
「えっと…おん、別にえぇで」
「馨ちゃーん!!?」
「金ちゃんに作るなら俺にも作って欲しかったい」
「じゃぁテニス部皆さんの分用意して来ますわ」
「……馨ちゃ…っ」
謙也撃沈。なんやかんやと話は進み、光と謙也にだけ作ってくるという話だったのが何故か今はテニス部に作ってくるという話に。
「部室で何しとんねん、昼練始まるでー」
「怒られる前に行くばい、金ちゃん」
「約束やからなー!!!」
「わかっとるで」
「………小石川…」
「なんやそのテンションの低さ。パセリやろか?」
「…要らんわ」
今の謙也にとっては他人の気遣いすら今は苦痛でしかないようで。…てかパセリで元気になるのは小石川くらいやないかと思う。沈んだ気持ちで昼練に向かおうとしていた謙也の服の裾をつんつんと誰かが引っ張った。そちらを見れば、
「謙也さんには特別スペシャルなん作って来ますさかい、楽しみにしとってくださいね」
悪戯に笑う馨の姿が。しかもこの発言。その威力は凄まじいもので今まで底辺ギリギリを行っていた謙也のテンションは急上昇☆←
「ほんまか!?…あ、せやけど無理はせんでえぇからな」
「わかっとります。ほな、あたし帰るんで。……あ、」
何か思い出したように急にポケットを漁り始めた馨に首を傾げると、馨は満面の笑みで謙也の手をとってその手にポケットから出した飴を乗せた。
「みんなには、秘密にしとってくださいね」
ほな、さよなら。ぺこりと頭を下げて去って行く馨の後ろ姿に謙也はきゅんきゅんしていたらしい。ぶっちゃけ変態に見えたと言うのは内緒だ。ついでに余談だが、その後すぐに昼練が始まり思わずポケットにいれていた飴はドロッドロに溶けていたらしい。
―――――
書きかけていたのをやっとこさ書き終え。
もうなんやらかんやらわからららなくなってきたからさっさと終わらせたいね。←
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