じゅさん





忍足謙也、今夜男見せます。





火曜日、いつものお時間です。





携帯を握り締めたまま動かない。その状態で彼はどれ程の時間を過ごしたのか。けれど何かを決めたように顔を上げると、いつもになくスピードスターらしくない速さでのろのろと携帯のボタンを打つ。内容を何度も確認し、何度も打ち直し、そうやって十分程携帯とにらめっこした後にやっと送信。

―送信完了―

その文字を見て携帯を閉じ、ゆっくりと深く息を吐く。その顔は物憂げで…

「あぁぁああ゛ぁぁメールしてもうた俺もう後引けへんでもメールしいひんかったら白石が…」

携帯が震え、ぶつぶつ呟いていた謙也の肩が飛び上がった。

「返信キタァァァァァ」

震える手を隠そうともせずに携帯を開く。そこに書かれている文字は。

『こんばんは、今朝はどないしたんですか?』

特に当たり障りのない言葉。実は今朝のメールのあの後、謙也はメールを返すことをしていなかったのだ。馨も不審には思ったらしいが授業等だったら迷惑になると思いあえてメールをしていなかったのだが、そのような態度を取ってしまった謙也は自己嫌悪に陥っていたらしい。

『授業が忙しかってん!気ぃ悪くしとったら堪忍なー』

汗マーク。ドキドキする気持ちを必死に抑えながら送信ボタンを押す。そうして再び一分しない内に震えた携帯を開いた。

『大丈夫なんで、気にせんといてください。授業お疲れ様っすわ』

その文字を見た瞬間、ほわほわとしたなんとも言えない感情が謙也の中を駆け巡る。やっぱ馨ちゃんえぇ子や、なんて気分になりながらボタンをゆっくりとポチポチ押し、再び送信ボタン。

「……………恨むで白石」

ぎゅうと握りしめた携帯電話。今まで通りならば一分とせずに返ってきていたメールが返って来ず、ぶっちゃけ謙也はプレッシャーで胃に穴が開きそうなのを感じていた。たかがシカメかもしれないだけで胃に穴とは、軟弱な神経の持ち主である。

「うぅぅぅ、胃が…胃が…っ!!」

そろそろ本気で穴が開くかと思われた頃、やっと返信が。それを見た謙也は胃に穴が開きそうだったことなど一瞬で忘れ、両手を上げてすぐに馨に電話をかけた。コール音は三回半。

『もしもし?』

「もしもし、急に堪忍なぁ馨ちゃん」

『いや、気にせんといてください。あたしも最近謙也さんと話してないなぁとか思うとったとこなんで』

「俺も毎週火曜日が待ち遠しいわ」

思わず、と言った感じに口から飛び出した言葉を止めることが出来ずに内心ばくばくと五月蝿い心臓を聞きながら謙也は馨が普通に返事をくれるのを期待していた。期待、していた。

『そうですねぇ。あたしも同じこと考えてました』

期待以上の言葉により、謙也暴走三分前的な感じである。

『あ、そういえば』

「おん?」

『部活、土曜日休みなんですよね?』

「そやでー」

『謙也さん、なんか用事とか入ってます?』

「俺基本暇人やからな」

苦笑しながら返す。因みにこの話の流れにも関わらず、謙也は何も気付いていなかった。ただ馨が話題をふってくれることにより自分は答えるだけでいいからとそんな微妙なところにほっとしていたりする。

『せやったら…謙也さんさええぇなら、テニス教えてくれまへん?』

「……俺、が。馨ちゃんに?」

嫌ならえぇんですよ。馨が慌てるのがわかり、その光景がすぐに浮かんで謙也はにやけた。ぶっちゃけきもいのは言わないでおいてあげよう。しかし謙也の頭の中では既に小人が小躍りを始めている状態だ。

「えぇで!スピードスターのこの俺に任しとけば、馨ちゃんもすぐうもなるから安心しとき!」

『よかったですわ〜。断られたらどないしようか思うてましたっ!』

ほっと息をついた馨に何度も頷き、ついでにほんまに俺でえぇん?と聞いていた謙也は、天にも昇る気持ちで次の言葉を聞いていたらしい。

『謙也さんがえぇんですわ』

必死にいつも通りを取り繕いながら、早めに早めに電話を切ろうと頑張る、が、しかしその言葉を遠回しにしか伝えられないヘタレさと、さらにやはり少しでも声を聞いていたいという自分の欲に勝てず、結局切ったのは30分経ってからであった。だが通話料など気にしたところはなく、彼の顔は弛みきっている。

「馨ちゃんとテニスやでー、最高やないか!!!…とりあえず白石にメールをー、と」

結局なんだかんだ言いながら謙也の恋愛は存外白石中心に回っていたりする。





―――――

意味わからんちね(^p^)/




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