じゅに
誰やったと?馨がメールは珍しかたい。謙也さんっすわ、テニス部やからちーさんも知っとるんやありまへん?謙也?なんで謙也と…。それは聞いたらあかんところやないですか。
頬を染めた馨が呟いた言葉に、千歳が敗北を感じたことさえ浪速のスピードスターは知らないのである。
火曜日、いつものお時間です。
side.白石
そーゆうのって、ないと思うわ。
ぽつりと謙也が呟いた。時間は過ぎて既に部活の時間、どうやらこいつは相当千歳と馨ちゃんの関係が気になっとるらしい。俺に助言できることは何もなかった。…だって俺千歳と馨ちゃんが何ともないん知っとるもん。
「あかん…あかんわ。もう駄目や」
「ショックなんはわかるんやけどな、謙也。部活に私情持ち込んだらあかんで」
「そない言うても俺…ショックで…」
だらしなく机に伸びる謙也を横目にロッカーを閉める。教室から引きずってくるんにもかなりの努力がいったっちゅうのにこいつはコートまで引きずって行くんにも努力を要するらしい。めんどいやつや。
「気になるんなら聞けばえぇやろ、千歳にでも馨ちゃんにでも」
「千歳はまず部活に来んやないか。馨ちゃんは…馨ちゃんに聞いて感付かれたらどないするん!?」
「勢いで告白しぃや」
「無理無理無理無理!!!俺シャイやねん」
それただへたれとるだけやと言いたかったが内心でつっこむだけで留めておいた。やって謙也めんどいんやもん。
「ちゅうか謙也、いつから馨ちゃんのこと好きなん?」
「……………いつからやろ」
「もう部活行くか」
本気で悩み始めた謙也にため息を吐く。なんやねんこいつ、ほんま人が色々してやりよんのに不真面目過ぎるやろ。
「多分、財前の話聞いてくれるようになって、他の話もしだすようになった頃あぁこの子えぇなぁくらい想いよった気ぃするけど、ほんま好き思うたんは多分、財前の愚痴校内放送した時やろか」
「守ってくれた背中に惚れました、とか言うん?」
「そうなんやけど、しがみついた背中がむっちゃ小さくて逆に守ってやらなんなぁって思うたねん」
「……惚れた理由が変態ちっくやな」
「変態とちゃうわ!!」
赤くなって返す謙也にあぁそうやなお前はへたれやもんな。そう返す前に部室の扉が開き、珍しいことに千歳が入って来た。
「………千歳」
「そげん睨まれるようなことした覚えないっちゃけど、どげんしたん?」
当たり前だが不思議そうに首を傾げる千歳に謙也が慌ててそんなつもりなかったんやと謝る。そうして若干の沈黙の後に「その、」と声をかけた。
「千歳は馨ちゃんと付き合うとるん?」
「馨?…あぁ、別にそぎゃんこつなかばい。ただのサボり仲間たい」
「いや、気ぃ使わんでえぇねん。俺わかっとる。物わかりえぇ男やから、ちゃーんと察しとる。せやからそない気ぃ使わんとはっきり言ってえぇんやで」
「…そう言われてもたいねぇ。別に馨とは何もなかし」
「名前で呼び合う仲やないか」
「馨?謙也も呼べばよかとよ」
「呼べたら苦労せんわぁぁぁ!!!」
ヒステリックに叫び謙也は机にずべっと伏せる。千歳はほとほと困り果てたように俺を見てきたけどとりあえず気付かんふりしてみた。
「ちわー…………謙也さん何なんスか。ほんまいつにも増してきもいっすわ」
部室の扉を開いてまず目に入ったらしい謙也の醸し出すどんより空気が心底気にくわなかったらしい財前がそんなことを言って、謙也がゆるゆると視線だけを上げた。
「…えぇねん、俺なんか。俺なんかこないやから浪速のへたれスターとか言われるし後輩にはなめられとるしテニスには負けるし。もうえぇねん、どーせ俺はへたれスターや。ただの負け犬やねん」
「今さら気付くとか超遅いっすわ」
「自分言っていいこと悪いことあるやろこのKY!そないやから馨ちゃんと千歳が付き合うとっても気付かんねん!!」
いつもならなんすかその言い方、とか言い返す財前やけど今日は違った。キラリと瞳が光り、千歳を見る。無駄に笑うとるんが謙也の恐怖を煽っとった。
「ほんまっすか?」
「謙也の勘違いたい。まだ、付き合ってなかばい。まだ、やけど」
「……………」
「……………」
「…ま、付き合う時は俺に一言入れんと誰とも付き合うとかありえんっすから。謙也さんの早とちりとかほんま迷惑ー」
ぶつくさ言いながら財前は着替えだす。千歳は薄く笑いながら、けど着替える様子はない。ここまで来て馬鹿やろ、こいつ。ほんで、謙也は。
「………ぇ、まだ、て。しかも財前に話通す、て。……………ぇ」
ほんま末期やと思う。すまん千歳、謙也のが馬鹿やったわ。
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楽しく書かせていただいております。←
色々期待をぶっ壊すことに定評のある伊織です。
千歳と馨ちゃんの絡みは結局書けずに。
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