大嫌いな彼に気に入られてしまう



あれから数日。
やり場の無いこのモヤモヤと共に過ごしてきたわけだが、やはりなんだか落ち着かない。
くそ、花宮真。
私から嫉妬を買うどころか、私の人生において初めてのキスを奪うだなんて、全く持っていい度胸じゃないか。
ホント、死んで欲しい。

しかもこの数日間、花宮真は毎日のように私の教室へ来ているのだ。
別に私に会いに来ているわけではなく、私の隣の席の康次郎に話しに来ているのだが。
なんとも、目が合うなり口元に笑みが浮かぶのが腹立たしい。
人を小馬鹿にしたような表情。
やっぱりこれが本性らしい、いつもの穏やかな笑顔とは全く違うから。

そうして放課後。
一日一回しか顔を合わせることの無かった花宮真が、最悪なことに本日二度目、教室へやってきたのだ。
ああそうか今日は木曜、男子バスケ部は休みの日だっけ…
うげぇ。

奴が教室に入ってくるだけでそわそわし出す女子も少なく無いが、私も、まぁ別の意味で落ち着かない。
嫌な予感がしていたが、見事的中。
花宮真は康次郎の席も通りすぎて、まっすぐ私の元へと歩いてきたのだ。

「みょうじさん、ちょっといいかな?」

よくないけど。

「ごめん、大事な話があるんだ」

どこか含みのある言い回しに、あたりがざわつき出す。
えっなに告白?でもあの二人ならお似合いだよね?なんて言って、クソ、ふざけんな!
よりにもよって嫌いな奴と恋仲の噂になんて、されて堪るか。

「ああ委員会の話ね、うんわかったよそれじゃあ行こうか花宮くん」

私の返事にあたりは落ち着きを取り戻すが、花宮真はと言えば、周囲にバレないように小さく舌打ちをしていた。
顔。顔。
猫被り解けてますよ。
何を考えているのか知らないけれど、つくづく気に食わない奴だ。

場所は変わって、この間の踊り場。
仕方がなく隣を歩いているというのに、ここに来るまで何度チラ見されたことか。
物珍しいのはよく分かるけれど、花宮真とセットで見られるというのがどうにも癪に障る。

「んで何」
「この前のこと謝ろうと思って」
「んなワケないでしょ」
「当たり前だろバァカ」
「威張るなクソ野郎」
「まあ、この前の続きでも話そうかと思って。心して聞けよ」
「嫌だ」
「ふざけんな」

畜生、なんでこんなテンポの良い雑談をしなければいけないんだ。
こんなにスラスラ会話が進むとか人生初めてだわ、また花宮真に初めてを取られたのか私、最悪だよ。
やっぱり気に食わない。大嫌いだ。

すると、花宮真はまたあの時のように近付いてきて、私を壁に追いやったかと思うと、やはり逃げ道を塞いで来て。
こういうこと慣れてるの?
よくこんなにもすんなり人ひとりをホールド出来るよね、関心するわ。

「退けて」
「まあ聞けよ」

そうしてまたデジャヴ。
花宮真に、唇を塞がれる。
クソ、クソ。こいつに二度もこんなことをされるだなんて、なんて屈辱だ。
綺麗な顔しやがって。
もう一度ぶん殴ってやりたい。

「っやめて」
「お前、俺のことが嫌いなんだろ?じゃあどうだよ。やっぱり嫌か、キスをされるのは」
「嫌だ、ふざけんな」
「ふはっ!顔赤くして何言ってんだよバァカ、嫌がるならもっと本気で嫌がれよ、馬鹿にしてんのか?」
「…何が言いたいの」
「解ってんだろ」

解りたくも無いけれど ね。

「普通に好きだって言えないの、花宮真」

ああ、最悪だ。
人生で初めて私を負かした、どう足掻いても勝てない大嫌いな奴が、私を好いている。
世界中に存在するあらゆる矛盾の中でも、これは、軍を抜いて異質な矛盾だ。

目の前で笑う綺麗なお顔に腹が立つ。
やっぱり嫌いだ。あんたなんて。

20140310



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