大嫌いな彼が出来上がる



人生ってつまらない。
そう呟いた私に、たかだか18年余りしか生きていない癖に何を諦めているのか と皆は言った。

私は何でも出来た。
勉強だって運動だって特に努力をせずとも何とかなるし、むしろ、そんなんでも人より出来ちゃうくらいで。
容姿だって整っているのは知っているし、日頃明るく過ごしているので便宜上のお友達だって沢山いる。
つまり、何を言いたいかって言うと、とにかく私は自信に溢れていて、努力する ということを知らなかったのだ。

しかしそんな私もこの人生で一度きり、本当に一度だけ、頑張ってみたことがある。
それも、特に自信のあった勉強で。

様々な推薦入試を取り入れているこの霧崎第一に学業推薦で一発合格。
ああ、まあ、当然だろう。
なんて特に気にもせず。
そうして入学してから一度目の中間考査、例の如く、私は勉強など微塵もせずにそれに臨んだ。
授業で習ったことしか出題されないのだから、こんなもの出来ない方がおかしい。
問題を楽々解いて、早々に寝た。

テスト返却。
95点100点99点96点100点100点100点98点、全八教科、合計788点。
もちろん一位だと思っていた。
しかし、廊下に張り出された結果は想像を絶するものだった。

「一位、花宮真…800点……」

そこに続いた私、みょうじなまえ。
三位には瀬戸健太郎。
二位と三位の差は54点。
自分の下がこんなにも僅差だということも私のプライドを抉り取るには充分過ぎるほどだったが、何よりも自分より上の人間がいる ということが、私にとてつもない絶望を味合わせた。

まさか。まさか。
この私が誰かに負けるだなんて。
私はすぐにその花宮真という人物がどんな奴なのか調べた。
するとどうやら、彼は隣のクラスの同級生で、何やら凄い人間であるらしかった。
そう。
彼も私と同じく、否 私以上に成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群な、人望の厚い素晴らしい人間だったのだ。

「クソ、花宮真……っ」

悔しかった。
妬ましかった。
こんな気持ちは初めてだった。
だって、今までは自分より優れている人間を見たことがなかったのだから。

そうして一年一学期の期末考査、私は人生において初めて家庭学習を行った。
その内容のほとんどは既に頭の中にあるものだったので、復習という作業はとてつもなく退屈だった。
しかし、数少ない覚えていない内容を探し当てることが出来たので良かった。
完璧だった。
なのに。それなのに。

一位 花宮 真 1000点
〃 みょうじ なまえ 1000点

まさか、嘘だろう?
教科数も多く範囲の広い期末考査でも、一点も落とすことが無いだなんて。
同列一位なんて許さない。
まだ総合点では私が負けている。

次のテストもそのまた次のテストも、私は勉強をした。
しかし時は流れ二年になろうとも、花宮真が満点以外を取ることなど、一度も無かった。

「なんだみょうじ、お前が点を落とすなんて初めのテスト以来じゃないか?珍しいこともあるもんだ」

二年の期末考査。
私の合計は973点。
花宮真はいつもの1000点。
私達の点差は、12点から39点になった。

「あー、まあ、もう諦めたんです」

私の言葉に、担任教師はすぐさま花宮に勝つのをか と図星を突いてきた。
なんだ、分かっていたのか。

「そんなお前に悪い情報をくれてやろう」
「なんすか」
「花宮がお前を褒めていたぞ。『先生のクラスのみょうじさんはいつも頑張っていますね』って」

そうして私は再び、努力することを辞めた。
勝てないと解っている相手に勝負を挑むほど熱血では無いからだ。
勝ちっ放しでつまらない人生は一転、どうやっても勝てないからつまらない人生に早変わりしてしまった。

この日、私は花宮真が大嫌いになった。

20140309



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