傍に〈Close by〉
私が雄英高校1年A組に転校してきて一週間が経った。
だいぶ、クラスのみんなとも仲良くなれた。
さすがヒーロー志望のみんなというか……明るくて活発なひとが多いから、すぐに距離が縮まる。
休み時間は読書をしたい、というか、今まではそうしてきたのだけれど、おしゃべりをすることが多いので読書をする暇がない。
いいのか、悪いのか。
きっといいことなんだろうな。
あの朝から毎日モーニングコールをしているけれど、ある意味モーニングコールをすることを日課にしたのは正解だったかもしれない。
だって、学校に来たら最低限のことしか喋れないから。
爆豪くんは爆豪くんで切島くんたちと喋っている……というか、まあ、囲まれていることが多いし。
私は私で、お茶子ちゃんや梅雨ちゃんと喋っているし。
というのも、
「さすがに一日目で付き合ったなんて言ったらみんなびっくりするよね? 言わない方が……」
「あ? 別に構わねーだろ」
「いやでもですね」
「でもじゃねーよ。付き合ってんのバラさなきゃ牽制になんねーだろうが」
「私はほかのひとに靡いたりしないよ」
「……そうかよ」
というやり取りをしたのだ。
私の考えで申し訳ないのだけれど、まあ、はい、ちょっと他人の目が怖いといいますか。
一目惚れでソッコー付き合う人間だと思われるのが怖いのだ。
爆豪くんはそれでもいいと思っているみたいだから、ちょっと悪い気はしているんだけど。
それで、ほぼ毎日一緒に帰りはするんだけど、みんなの下校時間とは少しずらしている。
なにかと理由をつけて遅めの時間に帰る、みたいな。
それができない日は別々に下校して……みたいな。
お昼ごはんも一緒には食べていない。
そろそろ一回くらい一緒に食べても……とは思うんだけど、なんだかお茶子ちゃんや緑谷くんたちと食べるのが日課になってしまったのだ。
それはそれでいいことなんだけど。
今日は、一緒に帰れなさそうな予感。
大規模な清掃が入るとかで、早く学校を出なければならないのだ。
「じゃあ、またねみんな」
「晶ちゃん、またねー!」
私はイチ早く外に出る。
どうせ一緒に帰れないなら、早く帰って電話でもしようかと思ったのだ。
すると、急に肩を掴まれて後ろに体を引かれる。
バランスを崩して後ろに倒れそうになる。
けれど、背中には壁。ならぬ……
「爆豪くん!?」
そこには彼の胸板があった。
それに寄りかかる形になった私に、腕を回している爆豪くん。
これは……もしや抱きしめられている?
「そんなびっくりすんじゃねーよ」
「わわわわ、ほかのひとに見られたらどうす「いいだろ」……う」
よくない。よくないよ。
バレるバレない以前に、こんなの恥ずかしいよ。
まわり、ざわざわしてるし!
「爆豪くん、離し……」
「離さねェ」
「うう……」
「こうやって見せつけなきゃわかんねーんだよ。アホ面が言ってたけど、お前、もう結構いろんな奴らに好かれてんだってな」
「え?」
「だから、見せつけてやンだよ」
いや、それ初耳ですけど。
「えっと……」
「ファンクラブなんて言ってる奴らができたんだと」
「なにそれ!?」
「知らねーよ。けどお前は俺のモンだ」
「それは……そうだね」
ざわついてるのはそういうこと?
いや、それだけじゃないと思うけど。
というか、ファンクラブっていうなら爆豪くんにこそありそうだけど……
怖い感じだから逆に存在しないのかな。
でも、爆豪くんのことが好きな女の子はいそうだけどな。
だって、こんなにかっこいいんだもん。
「ねえ、爆豪くん」
「なんだよ」
「今日、うちに来ない?」
「行く」
「ふふ」
「なに笑ってんだよ」
「なんでもない」
ぱっと爆豪くんから離れて、私は爆豪くんに手を差し出した。
「寂しがりの爆豪くんには、この手を差し伸べようじゃないか!」
「んだそりゃ」
爆豪くんはふっと笑って、私の手を握った。
そうして手を繋いで、私たちは帰路についた。
目指すは、私の家。
なんだか、公衆の面前で抱きしめられちゃったら、もう全部吹っ切れちゃったな。
これで、彼の手のぬくもりに集中できる。
「ありがと、爆豪くん」
「あ?」
「好きだよ、とっても」
「……おう」
「爆豪くんは?」
「なんでもかんでも言わせんの好きだな、お前」
「女の子は言葉にしてほしいものなのだよ」
そういうと、爆豪くんは「あー……」と空に向かって言ったあと、目を合わせないまま、ぼそっと呟くように言った。
「俺もだ」
頑なに好きという単語は出してくれないけれど、今日はこれで勘弁してあげよう。
「なにニヤニヤしてんだよ」
「別にィ」
「……うぜーやつ」
「なんとでも言いたまえよ」
今日の爆豪くん供給のおかげで、あと一ヵ月は生きていけそう!
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