翌日〈morning call〉



 あれから、送ってもらう道中で連絡先を交換して、私たちは家の前でわかれた。
 ただでさえ転校初日だっていうのに、なんだか怒涛の一日になっちゃって、かなり驚いている。

 まさか、転校初日で恋人ができてしまうなんて思ってもみなかった。

 で、だ。
 私は今日、その恋人から重要な任務を任されている。

『明日六時に起こせ』
『おやすみ』

 というメッセージが来たのが二十三時ころのこと。
 いや、まあ、私も六時には起きたいからいいんだけどね。

「どうしよう……」

 これは、テキストの方がいいのか、それとも電話の方がいいのか?
 もともと早起きだから、五時に起きちゃったんだけど……小一時間迷っている。

 六時ジャスト。
 悩んだ挙句、テキストを送ることにした。

『おはよう!』
『爆豪くん起きて〜』

 すると、すぐに返信が返ってきた。

『ふざけんな』

 そして、着信。
 突然のことにわたわたして、指が滑って通話ボタンをタップしてしまった。

「も、もしもし」
「お前よォ、普通モーニングコールっていったら電話だろうが」
「それが相場ですか」
「なんで敬語だよ。そうに決まってんだろ」

 どうやら私は失敗してしまったようだ。
 あと、爆豪くんは意外と結構甘えたさんらしい。

「朝から声が聞きたいってこと?」

 そういうこと、だよな。
 でも、返ってきたのは否定の言葉。

「あ? そんなんじゃねえよ」
「そんなんじゃないんだ……」

 私がしょんぼりしていると、爆豪くんはこれでもかというほど大きなため息を吐いた。

「……あのなあ、言わなくてもわかンだろ」
「言わなくてもわかれスタイルはメンヘラのそれって相場が決まってるんだもん」
「んだそりゃ。知らねーよ。とにかく汲み取れってんだ」

 じゃあ――
 じゃあ、つまり、爆豪くんは朝から声が聞きたいってことでファイナルアンサー?

 学校に行けば会えるのに、これってかなり束縛心が強いのでは?

「わかった」
「わかればよし」
「激重上等」
「だれが激重だよふざけんな」
「私も重いので」
「だから俺は重くねえって」

 いや、重いと思うよ。
 でも、私にとっては愛は重いくらいの方がよくって。

 だって、今まで愛されてなんてこなかったから。

「ありがと」
「あ? なにが」
「惚れた宣言してくれて」
「……今日、ほかの男と喋ったらコロスかんな」

 どうやら嫉妬心もすごいらしい。

「了解」
「ホントにわかってんのか」
「わかってるよ。爆豪くんもほかの女と喋ったら私がころすね」
「冗談に聞こえねェ」
「本気だもん」
「っていう冗談だろ」
「わかってきましたね、私のことが」

 冗談を言い合える相手って貴重だな。
 爆豪くんは、最高の恋人で最高の友達になれそう。

「じゃ、続きは学校で」
「……おう」
「なに、寂しいの?」
「ちげェよ」
「素直じゃないなあ」
「うるせえ。じゃあな」
「うん、またね」

 電話を切って、耳に残る声の余韻に浸る。
 好きな人との電話って楽しいんだなあ。

 なんとなく男子と電話をしたことはあったけれど、別にこんな気持ちにはならなかった。
 好きって気持ちが溢れてくる感覚。

 不思議――
 爆豪くんと喋っていると、一緒にいると、家のことなんてどうでもよくなっちゃうくらいなの。

「……よし!」

 ご飯を食べたら歯を磨いて、顔を洗って髪を整えて、そうしたら学校に行こう。
 大好きな人がいる学校に。

 今日も友達が増えるといいな。



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