放課後〈confess〉



 戦闘訓練の授業が終わり放課後を迎えると、体はもうくたくたになっていた。
 初めての環境で、初めての人間関係だったから、余計に、かな。

 北海道の家を出て、初めての一人暮らしも始まったばかりだから、頑張らないと。
 そう決意して、席を立つ。

「おい」

 家に帰ろうとしていると、爆豪くんが話しかけてくる。

「うん? なに? 爆豪くん」
「ちょいツラ貸せや」

 聞き覚えのあるセリフ。

「本日二回目」
「いいから貸せや」
「いいよ」

 爆豪くんに着いていくと、後ろからお茶子ちゃんが「またさらわれてるぅ!」と叫んでいた。
 別に、さらわれているわけでは……

 クラスのみんなが少しざわざわしていたけれど、私はとりあえず爆豪くんに着いていくことにした。

 着いたのは、あの階段の踊り場だった。
 表の方の階段じゃないから、人が下りてこない。

 静かだ。

 遠くの方で生徒たちが騒いでいる声が聴こえるくらい。
 そりゃあ、好んで爆豪くんもここに来るわけだ。

「また秘密の場所に連れてきてくれたんだ」
「だからそんなんじゃねえって」

 あ……
 私、まだ謝ってなかった。

「あn「ごめんなさい!!」……あ?」

 訓練のときに右頬を殴っちゃったから、怪我させたんだった。

「なにに謝ってんだよ」
「その、頬の怪我……やってしまったな、と……」
「そんなんどーでもいい」
「どうでもよくないよ! 顔に傷が残ったら……」
「そんなひでー怪我じゃねーし、男なんだから傷くれー気にしねー」
「だめだよ、だってそんなにかっ……なんでもないです」
「あ? んだよ。言え」

 言えない。かっこいいなんて急に言ったら、怒られる気がする。
 絶対口が裂けても言えない。

「い、言えない」
「か。なんだよ。言え」

 にじり寄ってくる爆豪くん。

 私の背には、壁。
 壁には、爆豪くんの手。

 いわゆる壁ドンをされている状態で、私は今、詰められている。
 もう逃げられない。
 覚悟を決めて、言おうとしていたことを口にする。

「か……か、かっこいい、から……顔に傷はよくないなって……言おうと……」

 そういうと、爆豪くんは「は?」と一瞬びっくりしたような顔をして、ばっと私から離れた。

「爆豪くん?」
「近寄んな!」
「え、ええ?」

 よく見ると、爆豪くんは顔を赤くしていた。
 顔を片手で隠しているけれど、耳まで真っ赤。

「もしかして、照れてる……?」
「見んな!」

 そんなこと言ったって。
 気が付くと、私の胸はどくどくと強く脈打っていて。

 もしかしてだけど、爆豪くんって、私に気が……?

 いやいや、そんなわけ。
 だって今日あったばかりだし。
 今日あったばかりで、そんなの、あるわけ……

 ……じゃあ、なんで今日あったばかりなのに、私は今ドキドキしてるんだ?

 爆豪くんに一目惚れってこと?
 それにしたって、早くないか? こんな展開、こんな状況。

「爆豪くん」

 ちょっとだけ、聞いてみたくなった。

「……んだよ」

 爆豪くんはそっけなく私の言葉に応える。

「私のこと、好きだったりする?」

 そう訊ねると、爆豪くんは「あー!」と叫んで数回地団駄を踏んだ。
 そして、きっ! と私の方を見て、言った。

「そうだったら悪ィかよ!?」

 悪いなんてことない。絶対に。
 そんなこと言ったら、私なんて――

「全然、悪くない。私は、たぶん、爆豪くんが好きなんだと思う」
「……」
「今日あったばかりで、どうしていいかわからないのだけれど。でも、たぶん、これは一目惚れってやつで、教室に入ったあの瞬間から、爆豪くんのことなかり視界に入って、爆豪くんのことばかり考えてる」
「……そうかよ」
「だから、聞かせてほしい」

 ――私のこと、好き?


*****


「私のこと、好き?」

 そう言ってくる空山に、俺はうろたえてしまった。

 顔があちぃ。一周まわってイライラする。
 なんで俺は今、翻弄されてるんだ。

 呼び出したのは、俺が告白するためだったんだろーが。

「ああ好きだよ! 好きだと思っちまった!」

 ずかずかと歩いて、さっきとった距離の分、にじり寄る。

「あんとき、ぶん殴られて確信した。こんな強え女、惚れるしかねーって」
「強さで好きになったの?」
「……厳密にはちげえ。確信だって言ってんだろ。それ以前に……」
「一目惚れってこと?」

 まあ、あれは、一目惚れと言えば、一目惚れになるのか。

「……お前のその目に、吸い込まれるかと思ったんだ」

 そういうと、空山はくすっと笑って「意外と詩的」と言う。

「うるせーな」
「ごめんね。あの、嘘じゃないんだけど、私もね……爆豪くんのその赤い瞳に惹かれてどうしようもなかったの」
「そうかよ」
「うん。だから、一緒だね」

 ふわりと笑う空山。
 笑顔も、綺麗だと思った。

「……帰るぞ。送る」
「いいの? 住所知らないでしょ?」
「どこか知らねーけど送る」
「いいなら、お願いします」
「いいっつってんだろ」

 階段を降りて、私たちは一緒に玄関に向かった。

 帰路に着くときは、助けてくれたときのように、自然と手を繋いで。



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