出会い〈Eyes meet〉



「入れ」

 突然「転校生だ」と説明されたその女は、教室に入るなり、空色の瞳で俺をまっすぐに見た。

「自己紹介して、あの空いてる席につけ」

 確かに、目が合ったんだ。
 気のせいなんかじゃない。

「はい――」

 ああ、そんな目で見るなよ。

「空山晶です。よろしくお願いします」

 心臓がぎゅっと握られたみたいに苦しくなった。
 なんだ、これ。

 空山と名乗った女はお辞儀をして、顔をあげた。
 整った顔立ち。悔しいが「綺麗だ」と思った。

 そして、その立ち姿勢、纏う空気……女のすべてから、女が「明らかに強い」ことがわかる。

「どうした爆豪!? 猫みてえに飛び上がって」
「あ?」

 気が付くと、俺は席を立ち上がっていたみたいだった。
 がたん、と椅子が倒れる音がする。
 クソ髪が猫だなんて例えで俺を弄るが如く、でけえ声を出して、ついでに驚いている。

「いや……こいつ、強えな、と思って」

 そうするとクラス中から爆笑の嵐を食らう。

「強えなってびっくりして立ち上がったのかよ! やっぱ威嚇する猫だな!」
「うるせえ! 黙れ! びっくりしてねーわ!」

 目があったのが、全部悪い。

 ほんとに、なんなんだよこの女は。
 調子狂わせやがって。


*****


 今日から新しい学校、新しい教室……新しい友達、できるかな。

「入れ」

 ドキドキしながら教室に足を踏み入れると、ふと、一人の男子が目に入った。
 ツンツンした金髪の、ひときわ目つきの悪い赤い目をした男の子。

 うわ、やばい。

 かっこいい。

 どうしても目が惹かれて、凝視してしまった。

「自己紹介して、あの空いてる席につけ」
「はい」

 あの男子も、私を見ている――

「空山晶です。よろしくお願いします」

 そう思うと上手く喋られなくて、私は簡単な自己紹介しかできなかった。
 もしかして、私ってば一目惚れした? まさかね。

 私は冷静、冷静。

 すると、急にその男子はがたっと音を立てて椅子から急に立ち上がった。

「どうした爆豪!? 猫みてえに飛び上がって」

 赤髪のはつらつとした感じの男子がツッコミを入れる。

「あ?」

 爆豪くん、っていうのか。
 爆豪くんは、目つきをさらに悪くして、赤髪の男子に突っかかるようにして声を発した。

 もごもごとなりながら、爆豪くんは言った。

「いや……こいつ、強えな、と思って」
「強えなってびっくりして立ち上がったのかよ! やっぱ威嚇する猫だな!」

 私が強い、と、わかるのか。
 ということは、彼も相当強いはず。

 人間、同レベルの人間には敏感になるものだから。
 同レベルの人間か、自分より下の人間の能力に関しては、気が付けるもの。

 わあ、かっこよくて、強いとか。

「うるせえ! 黙れ! びっくりしてねーわ!」

 でも、ちょっと声が大きいかも。
 びっくりしてないと言い張る彼は、私の目には、なんだか可愛らしく映った。

 クラス中の笑い声の中、担任の相澤先生が呟いた。

「静かにしてくんねーかな……」
「先生も大変なんですね」
「ああ、大変だ。お前はまだ扱いが楽そうだ」

 笑い声の中、私は一番後ろの窓際の席を目指して歩く。
 爆豪くんの席を横切るとき、彼が一言、

「キレーなツラぁしやがって」

 と舌打ちをしてきたことを、私は一生忘れないと思う。



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