手作り料理〈home date〉
おうちデートをすることになり、張り切ってスーパーで買い出しをしたら、ちょっとカゴにものを入れすぎてしまって、荷物持ちをする爆豪くんが軽く舌打ちをしていた。
お金も半分出してもらっちゃって、ちょっと申し訳ない。
「ごめんね買いすぎちゃって」
「んな買ってどんだけ食わせる気だよ」
「食べない?」
「食うわ!」
この怒るのもなんだかキレ芸なんじゃないかと思えてきた。
そうなるとかわいいもので、積極的にいじりたくなってくる。
というのは冗談として……
アパートの前に着いたので、階段を上る。
鍵を開けて、玄関ドアを開ける。
爆豪くんを先に入れてドアを閉め振り返ると、爆豪くんがドアに手をついて私の視界を陰らせた。
「あの……なに?」
「……ちょっと黙って目ェ瞑れ」
言われた通りにぎゅっと目を瞑ると、なんだか唇にあたたかく柔らかな感触。
それがゆっくりと離れて、目を開けると、至近距離に爆豪くんの顔が。
「え」
まさか私、今キスされた?
キスというものをしたことがないから、あの感触が本当にキスだったのか、いささか疑問なんだけど。
でも、唇に触れる柔らかいものって、普通に考えたら唇しかないわけで。
「き、キスした!?」
離れる爆豪くんに聞くと、
「言わせんな!」
とキレられる。
「なんでまた急に……」
「したかったからしたンだよ」
「そっか……」
「もうちょっとウレシそうにできねーのかよ」
「いや、その、びっくりが勝っちゃって。ごめん」
ちょっと恥ずかしくなってきたので、爆豪くんの横を通り抜けて台所の冷蔵庫に食材をしまう。
ごまかしである。照れ隠し。
「ごはん、作るから」
そう言ってエプロンを着けると「……おう」と小さく返事をする爆豪くん。
ちょっと悪いこと、したかな。
*****
急にキスしたくなって、したらこの反応かよ。
俺は人並みに緊張しながらしたっていうのに、テメェは緊張も喜びもねーのかよ。
いつも通りに振舞いやがって。
考えてたらモヤモヤしてきて、モヤモヤを晴らすのに別のこと考えてたらさらにイライラもしてきて、どうしようもねえ。
「ごはん、作るから」
「……おう」
空山はなんとなく気まずいのか、無言でメシを作っていた。
俺はそれが気に食わなくて、空山の後ろ姿に向かって声をかける。
「嫌だったのかよ」
「嫌じゃないよ」
「じゃあなんで目ェ合わせねーんだよ」
「……ごはん作ってるから」
「それはそうだとしても会話くらいしろや」
「今してるもん」
言い訳の嵐でキリがねえ。
「おい」
俺は台所で空山の横に立った。
そうして、振り向いた空山にもう一度キスしてやった。
「これでも会話する気にならねェかよ」
「……ずるい」
「あ?」
「爆豪くんばっかり、ずるい」
なに言ってんだこいつは。
そんなことを思った瞬間、空山は俺の頭に片手を回してぐっと引き寄せると、俺に無理やりキスをした。
一瞬何が起こったかわからなくて、固まってしまった。
唇が離れていく。
こんなムーブ、まるでイケメンのすることだろうが。
俺より身長低いくせに。女のくせに。
「……男らしすぎンだろ」
「……可愛げがなくて悪うござんした」
不敵に笑う空山に、胸が高鳴る自分がいた。
すっと身を正し、空山は「さてさて」と呟いた。
「もうすぐできるから、座ってて」
「……わかった」
黙らされた気がする。不服だ。
でも、空山からキスを貰えたから、今回は不問とする。
その後の手作り料理は、少しだけ焦げていた。
俺が邪魔したせいだと思う。
まあ、それでもうまいから、結果オーライ。
食べ終わって食器を片している空山に声をかける。
「なァ」
「なに?」
スマホの画面を切って、ふとした疑問を口にする。
「ケッコンって毎日こんな感じなんかな」
「げほっげほっ」
「なにむせてんだよ」
「いや……突然だったから……」
「なんでも突然だろ物事は」
「うん、まあ……うーん、結婚かあ。わかんないけど……」
手を止めて、わざとらしく顎に手を当てて考える空山。
「わかんねーけど?」
「わかんないけど、結婚したらこうやって毎日一緒にいられるのは、いいよね」
「……そーだな」
やべえ、なんか、めちゃくちゃ嬉しい。
我ながら突然だったと思うし、結婚なんて言葉を口にするにはまだ早いはずなのに、真摯に受け止めて返してくれたことが、嬉しかった。
「ま! まだ私たちには早い考えだけどね! いろんな意味で!」
「爆速交際からの十日くらいしか経ってねーからな」
「ふふ、そうそう。まだ一ヶ月も経ってないんだよね」
結婚なんてまだ早い。
けど、将来的には……なんて考えて。
ちょっとだけ、こっ恥ずかしくなった。
そんなデートだった。
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