だまれよ、ほんと。
「古橋さん古橋さん古橋さん」
「………」
「古橋さんってば」
「……………」
「古橋さぁーん」
「…………………」
押してダメなら引いてみろ作戦 終了。
また、いつもの煩わしい日常に逆戻り。
何が煩わしいって、相も変わらず好きとしか言わないみょうじに何も言えない俺のへたれ具合が、本当に煩わしい。
もう答えは出ている。
確かにみょうじは俺に好きだとしか言わないが、進展を望むのならば、俺の気持ちを打ち明ければ良いのだと、この間気が付いた。
少し気付くのが遅かった。
もっと早く気が付けばよかった。
「…古橋さん、好きですよう」
しかし中々踏み出せない。
今まで割と冷たくあしらっていたから、なんだか手のひらを返すようで、少し気持ちが悪い気がするからだ。
多少なりとは悟らせるような行動もとってきたつもりではあるが、みょうじからしたら、そんなものは気が付いていないので、無かったものも同然だろうし。
どうすることも出来ず、後ろについて来るみょうじの呼びかけに対し、今日の俺はガン無視を決め混んでいた。
いや、ダメだろう、これ。
「う…ぐすっ…」
すると、後ろから聞こえる啜り泣き。
足音も止まる。
ぎょっとして振り向くと、案の定みょうじは泣いていた。
待ってくれ。
何も泣かすつもりまでは無かったのだが、というか、無視だってしたくてしていた訳ではなくてだな。
「おい、みょうじ」
「ふ、古橋さんに嫌われた…ついに、ついに嫌われたぁぁぁ…うわぁぁん!」
「はあ?」
確かにそう思われても仕方が無いが、いや、ここに来てもまだ言わせて貰いたい。
俺にまともな方法で答えを求めなかったみょうじも相当悪いと思うぞ。
背中をぽんぽんと叩いてやると、肩を揺らしながら、何やら懺悔し始めるみょうじ。
「ぐすっ…私、分かってたんです…あんまりしつこくしたら嫌われるよなって…」
「まあな」
「でもっ!でも私、バカだから、好きとしか言えないし!うわぁぁん!ごめんなさい!嫌いにならないでください!!」
確かにバカだが。
…なんというか、ほとほと呆れるな。
「別に、嫌いになってない」
「でもっ…無視……」
「嫌いじゃないって言ってるだろ」
「…だって古橋さん、いつも好き好き言ったら嫌な顔してたじゃないですか」
嫌いだとか、いつ、誰が言ったんだ?
全く、困ったものだ。
「おいみょうじ、お前の好きなのは誰だ」
突然の俺の言葉に戸惑うみょうじ。
ふん、もっと困れ馬鹿め。
俺が今までお前に頭を悩ませてきたのと同じくらい悩めばいいさ。
「えっ、なんで…」
「いいから」
「も、もちろん古橋さんですよ!?古橋さんが大好きです!!」
なあ、本当に。
彼氏にでも旦那にでもなってやるから、いい加減、これで俺の気持ちもわかってくれよ。
「俺も好きなんだよ、お前と同じだ」
ああ、これならば、進展は望めるだろう。
悟らせることはもう諦めた。
さあみょうじ。
自信を持って次のセリフを言えばいい。
「えっ?じゃあ古橋さん、私と結婚してくれるんですか?」
どうしてそうなった。
なんでいちいちステップを飛ばしたがるんだ、お前というやつは。
「…だまれよ、ほんと」
いい加減にしろよ、お願いだから。
こうして馬鹿な後輩と俺の決着はついたのだった、と、本当に賭け事でもしているような気持ちだったよ、全く。
20140311
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