イラつく、この阿呆が。



「ふんふんふん」
「………」
「ふふんふんふーん」
「……………」
「ふんふふふん…あっ古橋さん!おはようございます!えへへぇ今日も素敵ですね!」

朝一でみょうじを見た日は、大抵、ろくな一日にならない。

「おはよう」
「あっ今日もみょうじは古橋さんのことが大好きですから安心してくださいね!」

俺は一体、何に対して安心すれば良いと言うのだろうか。

これから朝練に向かうわけで、当然みょうじも追いかけて来るのだが。
なんて言うか、こいつは気が付くと視界の端にちょくちょく映ってくるから、なんかイライラするんだよ。

「ああー待ってくださいよう古橋さん!私も体育館に行へぶぅっ」
「やかましい」

人がせっかく立ち止まってやれば、勢い余ってぶつかってくるし。
本当に意味が分からない。

「えへへへ待ってくれたんですね!嬉しいです!だから古橋さん大好きもう結婚してください」
「抱きつくなって、おい、やめろ」
「いやです離しませんうわぁぁ」

仕方が無いのでそのまま引きずって体育館まで行った。
部員からの反応は特に無い。
全員にとってもう慣れたことだからだ。

唯一毎回反応してくるような奴がいるが、あいつは朝練には大抵顔を出さないし。

「あれなまえちゃん、ついに古橋と結婚でもしたの?」

いた。今日に限っていた。
くそう、原の奴。
こいつはいつも懲りずにからかってくるから、少しだけ苦手だ。
何よりチャラいし。

「えっ、な、ななな何を言ってるんですか原さんてば!もー!」
「いっつも好き好き結婚してって言ってるくせに、なまえちゃんて人に言われると照れるよね」
「だ、だって!」
「あー、おもしれー。もーいい加減付き合ってやれば?古橋」

原、お前は軽々しく言うが、別に俺はみょうじに付き合ってくれだなんて言われたことは無いぞ。
好きだとか、数歩飛ばして結婚してくれとは、まぁ毎日言われているが。

そう。そこなんだ。
告白というのは、目的は狙いは人それぞれなのだ。
付き合いたいから告白する者が大半だろうが、体の関係が欲しいからする者だっているし、なにより、ただ気持ちを伝えたいだけでする者だっている。

だから、みょうじの気持ちが分からない俺には、どう反応して良いか分からないんだよ。
ああ、なんで俺がみょうじのために頭を悩ませなくてはならないのだろう。

「イラつく、この阿呆が」

もういっそ、視界に入らないでくれ。
心底めんどうくさい。

20140311



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