古橋康次郎の憂鬱



「おはよー」

古橋康次郎。
霧崎第一高校2年7組。
出席番号10番。
所属は、男子バスケ部。
なまえは いつものように 明るい。

「…あ、ああ、おはよう」

俺は、一体何ということをしてしまったのだろうか。
もしかして俺は、とてもとても恥ずかしくて、決して取り返しのつかないことをしてしまったのではないだろうか。
俺はなまえのことを、多分、好いている。
いや、そもそも、あんなに感情的になってしまうという時点で多分 ではなく確実 だとは思うのだが。
やはり訂正しよう、俺はなまえを好いている。
そして、それこそ多分 の話であるのだが、花宮はなまえをよく気にかけている。
瀬戸の可愛がりに近いものも感じるが、いや、そもそも瀬戸がどうなのかもよくわからないけれど、花宮はおそらく、彼女を特別に気にかけている。と、思う。
それと、この前の祭でのこと、花火のあがる少し前、山崎がなまえを好きだと言った。
これは本当に聞いているから、間違いはないだろう。
そんな状況を知った上で、俺は思った。
彼女にとっての俺という存在を、俺にとってのなまえのようにして欲しいと。
俺だけを特別にして欲しいと。

もちろん、ある種の葛藤はあった。
幼稚な独占欲、そして、友人の想いを察しまたは知っておきながら、彼女へ想いを告げることが身勝手ではないのか と言うジレンマだ。
今回の俺の行動は、友情と愛情どちらが大事かと聞かれ、自信満々に愛情 と答えたようなものである。
抜け駆けをした というような罪悪感が、今、俺の心の中を埋めている。

「…で?なんでお前いっつも俺のとこ来んの?」
「瀬戸、助けてくれ」
「無理」
「なまえの幼馴染のお前なら何とか」
「できない」
「幼馴染…」
「古橋、お前幼馴染って言葉を万能だと思ってない?」
「少しな」
「やっぱり」
「なあ、告白だなんて、勢いでするものじゃあ、ないよな」
「そうだなぁ」
「…死にたい」
「花宮のチ【ピーー】でも触ってみれば、多分確実に死なせてくれるぜ」
「死ぬ前にそんなもの触りたくない」
「お前ら何言ってんだよ」
「!?」
「驚きてーのは俺だよ、何で俺昼間から自分の股間の話されてんだよバカ」
「股間の話ではねえよ?」
「それならいい」
「ちなみに今は古橋のお悩み相談室だ」
「ああ、なるほどな、把握…で?あいつはイエスなのか、ノーなのか」
「な、なんで分かってるんだ!?」
「表情豊かな古橋が見れて嬉しいわ俺」
「原がいたら即写メだな。で?あいつは何て」
「…花宮がいるところで言っていい話題か?」
「いやどうでもいいそういうやつ、いいから早く言えよ」
「…俺が、好きだと伝えたら、」
「ん」
「ちょっと驚いたから今日は家帰るねバイバイ、と、下駄のくせに凄い速さで走り去って行った」
「…は?」
「流石に驚いた。のに、今朝は普通におはようと挨拶されて非常ーーーに、戸惑った。だからここに来たんだ、もう本当にあいつが分からない」
「………」
「……………」
「…健太郎、何か言ってやれよ」
「寝て起きて忘れたとかじゃなければいいね」
「やめてくれ」
「ありそうでこえーなそれ…」
「たまにあるから怖い。いや、流石にそんだけのことがありゃ忘れたとかは無いと思うけどさ」
「掃除後とかに確かめてみればいいだろ、無理なら健太郎の協力を得て帰り道か、無理なら家に帰ってからの電話の約束を取りつけろ」
「恋愛マスターだな、花宮…!」
「ふはっ、俺が実践したことは一つも無いけどな」
「おい、別に威張れねえよ、それ」
「あ、でも…」
「ん?」
「花宮は、前に、なまえを好いているような、そんな発言をしていなかったか?」
「…あー」
「古橋、それは聞かなくていいことだって」
「とは言っても、やっぱり友人のことがあれば気も引けるし、戸惑うだろ」
「わからなくもないけど」
「なぁ、花宮」
「俺は別に」
「別にって、何なんだ」
「…よくわかんねぇ。あいつをどうしたい、どうしてほしいって気はある。けど…」
「けど?」
「…あああ、もういい!いいからお前は黙って片想いしてろ!」
「片想い限定か?」
「なんでもいいかやることはやっとけってんだよ、黙れバァカ」
「投げやりだな」
「花宮って馬鹿みたいに頭いいけど、たまに馬鹿だよな」
「るせー」
「…放課後、聞いてくる」
「おう」


20140202



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