場所は変わって、花火大会の会場。
役所のある自然公園なのだが、中の遊歩道脇にレジャーシートを携えた家族連れやお年寄りが、より綺麗な花火を見ようと構えていた。
役所前の閉鎖された道路淵にはたくさんの露店が並び、そこに賑わう人だかりが出来ている。
どこへ行っても人、人、人。
当然と言えば当然だし、来る前からも分かっていたことなのだが、やはりいざこのような人混みに飛び込むと、途端にテンションが下がる。

「うわぁ…混みすぎ…」
「混んでんのが当たり前だろ。行列の出来るラーメン屋に並ぶわけじゃねーんだから、文句言うな」
「中々食べる機会も無いしな、屋台飯なんて」
「それもそうだねぇ」
「つーか腹減った」
「そうだな、昼から何も食べてないからか、結構空いてるな」
「いや、家出る前に飯は食ったけど」
「マジですか、その調子で今日の屋台も回り切る予定?どんだけお金使うつもりだよ、金持ちか」
「そうならねえように家で食ってきたんだ。こんなぼったくりみてえな飯だけで満腹に出来るワケねぇだろバァカ」
「さっすが」
「そもそも満腹に食べるというのはどうなんだろう」
「るっせ」
「古橋は人のこと言えないよね、花宮程じゃないとはいえ」
「そうか?」
「そうだよ。あ、チョコバナナ食べたい」
「腹減ったっつってんのにそれかよ」

文句を言いながらも一緒に並んでくれるあたり、花宮も素直じゃないと思う。
それから焼きそば(6個)、たこ焼き(2個)、焼き鳥(30本)程を買って、一旦公園内の空きベンチで並んで食事タイム。
なんやかんや言ってしっかり食べるらしい。
まあ、二人とも昼間は部活で動いているため、お腹が空いているのも当たり前ではあるのだが。
いやでもやっぱりこれは食べ過ぎ。
痩せの大食いってやつか、くそっ、嫌味か。

「なまえ、もういらないのか」
「もう焼きそば一個に焼き鳥つまんでるんだよ、チョコバナナも食べたし、結構な量だよ」
「お前全っ然食わねーんだな」
「結構な!量!だってば!!」
「どこがだよ」
「花宮さぁ、食に関する感覚おかしいよね、味覚についてもそうだけど」
「そうか?」
「そうだよ。てか食べ方リスみたい」
「あんな齧歯類と一緒にすんなバァカ、明日から節足動物って呼んでやる」
「節足動物…ぶふっ」
「やめてよ!てか古橋もなにツボってんの!?」

食事を終えたらゴミ箱を探す旅にでる。
こういったところでゴミ箱を探すのは中々大変なのである。
もっとゴミ箱をたくさん置けばきっと、ゴミのポイ捨ても無くなるというものだけど、タダじゃ出来ないことなので、中々難しいのだろう。
持ち帰るっていう手もあるけれど、今回ばっかりはこのゴミの量だから、うーん、持ち帰るのは無理だわ。
ようやく見つけたゴミ箱に大量のゴミを捨て公園内の遊歩道を回って、提灯が明るくなってきたところで屋台巡りを再開。

「金魚掬い!」
「やりたいのか?」
「ううん、たぶん掬えないからスーパーボールでいいや」
「それでいいのかよ」
「うんいいの、ちょうど野良猫と遊ぶ用に欲しいと思ってたとこだから」
「意味わかんねぇ…」
「というかなまえ、お前良い歳をして野良猫とスーパーボールで遊んでたのか」
「スーパーボールなら掬うの得意だから、見てて!」
「わかったから走んなバカ!」
「確かに走る格好じゃないな」

バカみたいに広い会場だけど、その分バカみたいに人も多いので、今のところ知り合いには会っていない。
私たちが動き回っていないせいもあるかもしれないけど…
原やザキも来ていると言っていたのに、こんなにも見かけないというのは少々寂しい。
女友達?いや、あの子らはご自慢の彼氏とイチャイチャしてるからいいわ、会っても惨めになるわ。
それにしても、さっきから見知らぬ女の子がチラチラこっちを見てくるんだけど、これってやっぱりさ、私がいなかったらこの二人逆ナンされてたんだろうね?
え、邪魔者?なんて思いながらも、何とか視線に耐えた私の精神は褒められて然るべきだと思う。
それはそうと、さっきからこの二人には言わなくてはならないことがある。

「ん…」
「? どうした、なまえ」
「いや、あの…トイレ行きたい」
「…悪かった。途中どこかで寄れば良かったな」
「そうだな。ああ、役所裏に回って広場に出たら公衆トイレがあるよな」
「ごめんね」
「じゃ、行くか」

いつも学校では菜の花摘んで参りまぁーす!とか、バカなことを言って堂々とトイレに行くんだけれど、こういった場になるとちょっと言い出しづらいというか…
わかるかなぁ。
古橋が謝っていたけど、トイレに行かなくていいのか、とか下手なタイミングで聞いたらセクハラになる可能性もあるので、男性から聞くというのは、決して当たり前というわけではないと思う。
役所裏の広場を目指して歩いていると、いざ着くという時、向かいからよく見知った顔がやってきた。
会わない会わないと思っていれば、こんなタイミングで会うだなんて。

「あっ!ザキ、ザキ、なまえと花宮と古橋いた!見て!」
「はぁっ!?マジかよ!」

マジかよ はこちらのセリフである。
あんたは何に驚いたんだいザキ。
原とザキの二人は、昼間聞いた通りクラスの男子と共に祭を回っていたようだった。
二人の他にあと三人程、ちょっとイケメンなチャラそうな人と大人しそうなメガネのイケメン、それに背の高い太った人がいた。
ああ、なんだっけ…彼女いない組で集まるとかなんとか言ってたっけ。
花宮は露骨に嫌そうな顔で舌打ちし、なんだよ と返した。
私もしたい、嫌な顔と舌打ち。
そしてトイレ行きたい。

「え、なに、結局三人で来たワケ?
「悪いかよ」
「別に悪るいとは言ってないって。あ、なまえ浴衣着てる、けっこー可愛じゃんそれ。ね、ザキ」
「何で俺に振るんだよ!」
「えっ原〜、こいつあれだろ?バスケ部の主将と監督してるっていう花宮」
「ん?そーだけど。で、その横の顔死んでんのが古橋、一応うちのエース」
「マジ?」

こいつ呼ばわりが気に食わなかったのか、顔をしかめる花宮。
古橋は気にも止めないといった無表情を貫いている。
チャラ男の発言に、メガネ君がやめなよ不愉快 なんて言って釘を刺している。
するとチャラ男は悪びれる様子もなく、こちらに近づいてきたかと思うと少し屈み、私の顔を覗き込んでくる。
あとトイレ行きたい。

「えーなになに、君、原と山崎のこともしってんの?

「マネージャーなんで」
「へぇ〜そうなんだ?ところで君、名前なんていうの?」
「みょうじです」
「もー、下の名前!」
「なまえですけど」
「へえなまえちゃんね、名前も可愛いね」
「はっ?」

にっこり微笑んだチャラ男。
わけがわからない。トイレ行きたい。

「いや、うん!オレ君のことけっこータイプかも…って、いだだだだだっ!ちょ、花宮くん!?なんでいきなり抓るんだよっ」
「いや、こいつ今用事あるから。おいなまえ、先に行ってろ、すぐそこだろ」
「あ、うん…」
「えっ何なに、なまえ用事?」
「うん、ちょっと言ってくるね」

花宮が迫り来るイケメンチャラ男の脇腹を抓って離してくれたため、とりあえず、トイレに行こうと思う。
とりあえずすぐに戻るから待っててと伝え、私はその場を離れた。
後ろでチャラ男くんが殴られる音がしたけれど、それは無視しておいた。


まだつづく
20140131



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