言わずと知れた悪魔



「う、ぁぁっ…ん、っふ……」

もう、もう頼むからやめてくれ、一体私がなにをしたっていうのか、神よ、答えておくれ。
ああ痛い、本当に痛いんだけれど、これは、こんなにも痛いものだったか?
下腹部がズキズキと鈍く痛む。
痛い痛い痛い、そろそろ言葉を発することすらままならなくなりそうなくらいだ。

「う、んんっ…っあ゛ぁ…」

やばい死ぬ。
そう確信した私は、思わず花宮の髪の毛を三本程掴んで抜いた。
道連れにしてやる。
そう、これは生理痛…

「い゛っ…てぇよ!なんなんだこのバカ、死ね!」

言われなくても死にそうなんですが、それは?
いやね、もう、マジ。
およそ一月に一度だけやってくるこの悪魔には毎回頭を悩まされるんだけれど、ここまで痛いのは久々かもしれない。
どれぐらいヤバイかって言うと、まじでヤバイって答えるくらいには、ヤバイ。痛い。
まるでお腹の中で小人たちが、構成員がドラマーとベーシストしかいないバンドを結成したかのような、重低音きいてるねぇyou みたいな、そんな痛さレベル。

「………いたい…」
「…生理痛か」
「…うん」

もう嫌だ痛すぎて死にそう、ていうか、もういっそ殺してくれ。

「だからってなんで毎月毎月、生理の時、俺のところに来んだよお前は」
「臭い?」
「そういう問題じゃねえよバァカ」
「…花宮なら」
「ああ」
「花宮なら、なんとかしてくれそう…」

痛みで途切れ途切れになりながらも、絞り出すようにそう言うと、はぁ?なんて抜けた声が聞こえる。
だって、本当に何とかなるとは思ってないけど、万能人間がいたら、なんかご利益で痛みが軽くなったりしないかなって思ったんだもん。
要するに気休めだけど。

「痛い」
「そうかよ」
「痛い…」
「わかったって」
「…痛い…」
「…そんなに言うなら止めてやろうか」
「えっ?」

出来るの?そんなことが。
○キソニンくれるだけとかだったらしばくよ、マジで。
私が尋ねると、花宮は一度だけ頷いた。

「ただ、期間限定だけどな」

限定でもいい!
私が何度も何度も頭を縦に振ると、花宮はマジかよ と言って続けた。

「10ヶ月だけの限定だけど、それでもいいのか」

少しでもこの痛みから解放されるなら、いっそ、初めの二日間でもいい。
これは、そういう切実な願いなのだ。
まして10ヶ月とか、神がかりでしょ、楽すぎてむしろ本望。

「と、とめて、お願い…」

もうなんでもいいから、この痛みから解放されたい。
もう脱糞しそうになる夢で目覚めたら生理痛で苦しんでるだけでしたーっていうデジャヴは味わいたくないよ…
え?そんなのない?私はあるんだ。

「じゃあ、今日の部活が終わったら俺の家に泊まりに来いよ、止めてやるから」

んっ?

「ああ、でも、生理中は駄目か」

んんん?

「なまえ、お前基礎体温とかつけてんのか?」

あれれ、えっと、なんかおかしなことに…

「まあいいか、生理後に続けてりゃなんとかなるだろ」
「いや、なんないから」
「は?」
「は?じゃないけど、え?なに?なんなの、妊娠?妊娠の話?意味わかんないんだけど、なんなの」
「10ヶ月止めるって言っただろ」

そういうことかよ。
てか真顔で言うなよ、そういうことを、あんたの真顔はなんか謎の信憑性を生むことで有名なんだから。

「せっかくの人の親切心を」
「たすけて健ちゃん、花宮に妊娠させられちゃう!」
「お前そういうことを教室で叫ぶなよ、俺がそういう奴だと思われる」
「知らないし、もう思われてるから大丈夫だって」

「いや、お前らの会話まとめて、さっきから教室中に筒抜けだったけど」


一度言わせてみたかったセリフ。生理痛止めてやろうか。
20140127



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