彼氏と祭にいくという女友達らに対抗して、というわけでもないが、なんやかんやあって花宮真と古橋康次郎という二人組を引き連れて祭、もとい花火大会に行くことになったみょうじなまえ。
学校一の秀才でありバスケ部の監督兼部長である花宮真に、そのバスケ部の背番号7番を背負う霧崎第一のエース古橋康次郎。
この二人を両手に…というのは、彼女にとって吉と出るのか凶と出るのか。

「あ、もしもし古橋?」

今日は、早朝からの練習だった。
14時に部活を終えて、18時に古橋と駅で待ち合わせ、花宮が来たらまっすぐ現地に向かうことになった。
花宮は今電車に乗ったところだと連絡が入った時、ちょうど古橋から電話がかかってきた。

『どこだ?』
「SL広場」
『置いていかれた』
「古橋どこにいんの?」
『汐留口の改札出た』
「ですよねー」
『今行く。ああ、花宮は今出たらしいな』
「うん、てか普通にそっちから一緒に歩いてくればよかった」
『今気付いたのか…』
「暇でさ」
『マイペースか』
「それ、古橋には言われたくない」
『なまえに合わせるくらいは出来るけど?』
「なにそれ」
『ん、着いた、どこだ?人多いな今日』
「手振る?私も古橋どこにいるかわかんないけど」
『勘弁してくれ。俺に逆方向に手を振ってるなまえに声をかける勇気は無い』
「えー」
『いや待て』
「ん?」
『本当にわからない、どこにいるんだ』
「あっ、いた、見つけたよ。でかいからすぐわかるね古橋」
『え、いやこっちからは見つけてない。小さいから全然わからないななまえ』
「轢くよ」

待ち合わせ場所に古橋がやってきた。
なかなかこいつもお洒落である。
ネイビーのポロシャツに、ベージュのクロップドパンツと爽やかモテファッションときたものだから、コレ。
背の高い古橋はだいたい何を着ても似合うので困る、というか、若干腹さえ立つこともある。
立ち上がり歩み寄って行くも、古橋は電話を耳に当てたまま、あたりを見渡していて気付かない。
腹のあたりをポンポンと叩くと古橋は驚き、愛用のスマホを落とした。あーあ。
私の耳元で、地面とキスしたスマホさんの悲鳴が大きく聞こえる。

「ここ。ね、いたでしょ?」
「あ…」

落ちたスマホを拾って手渡すと、また落としかけていた。
こういうあたり、古橋は天然なのかなと思うことも時々ある。

「どうしたのさ」
「え、いや、少し驚いて」
「それはマジでごめん。落とすとは思ってなかった、ほんとに」
「そうじゃなくて…」
「ん?」

私の袖を掴み、ヒラヒラとさせる古橋。
ああなるほどね、浴衣のことを言ってるのかこいつは。
にしても驚くって何なんだか。
おばあちゃんが着ていけって言うから、まあいいかなって感じで着てきたんだけど…そんなに違和感ある格好だろうか。
この浴衣、結構気に入ってるんだけどねえ…白地に赤い牡丹の花が可愛いんだ。

「え…変?」
「いや、可愛い」
「はっ!?」

だからって何もそこまで言えというわけじゃないんだけど、なんか気を遣わせたみたいで若干申し訳ないような、微妙な気持ち。

「古橋、なんかごめんね」
「なんで謝ってるんだ」
「あんた気遣いできるもんね意外と、うん、ごめんね」
「意外とってなんだ」
「あ、花宮からメール。今こっち着いて改札出たって」
「ちょうど出てきたぞ」
「うっそ。てか花宮歩くの早いよね」
「頑固でせっかちだからな」
「それ言えてる」

中身とか関係なく遠目から見てたら、やっぱりただのイケメンだなぁ花宮って。
いやまぁ、近くで見ても顔は無 駄 に いいんだけどね、あとスタイル。
おお、グレーのTシャツに、黒のストレートデニム、何というシンプルコーディネート。
どうりで花宮が休日出かけたくない筈だよ、ありゃ逆ナンも鬱陶しくなりますわ。
ほら、現に今も話しかけられてる。

「花宮も大変だな」
「ウケるね、何あの胡散臭い紳士的な笑顔」
「女が何で騙されてるのか些か疑問だな」
「ね。古橋はここ来るまでに逆ナンされた?」
「されるわけないだろ」
「話しかけづらい顔してるしね。一方花宮はと言えば、バスケ以外の時は結構穏やかな顔してるから…」
「いつも仏頂面ならあいつも苦労しないんだろうな」
「…おいお前ら、何グチャグチャ言ってんだよ」

聞かれていたみたいだ。

「花宮を褒めてた」

古橋は咄嗟に嘘をつく癖とか直した方がいいような気がする。
たまに冗談ぽくないのもあるからね、この人。

「それで、何だお前その格好」
「え、私?」
「なんで康次郎の服装について俺がケチつける必要があんだよバカ」
「あっケチつけられてるんだ私」
「可愛いよな?」
「ちょ、ちょっと古橋!?」
「可愛いけど」
「花宮ァ!!?」
「髪」
「へっ?」

可愛いを二連続でくらって何が何だか状態の中、花宮の手が頬っぺたにすっと伸びてくる。
え、なに、なに?髪?
焦っていると、左耳に少量の髪がかけられた。あ、うん、なるほど。

「やるならちゃんとやれよ、ここの髪落ちてたらみっともねぇ」
「あ…うん、ありがとう」
「じゃ、行くぞ」

なんか花宮素っ気ないな。
いつもだけども、いや、いつにも増して素っ気ない、気がする。
切符を買って電車に乗り込むと、ホームの状況と時間帯からも何と無く予想はついてたけど、かなり混んでいた。
立つのは構わないけど、サラリーマンもちょうど多くてちょっと嫌だな。
とか考えてたら、花宮にドアと座席の角に寄せられ、隣を古橋、前を花宮で固められた。
こいつらが集団痴漢だったら私は一介の終わりだと思えるほどの連携でした、さすがバレないラフプレーが得意な二人、団結と連携はお手の物ってことか。怖い。

「ピーチ姫の気分」
「バァカ、お前はワリオだ」
「花宮、さすがにそれは可哀想だ、せめてノコノコと言ってやろう」
「むしろキャラ人気的にはランクダウンしてる気がするんだけど」
「でもピーチではねぇよ」
「ピーチがいい」
「無理だな」
「なにこれ泣きそう」

とか言いながらもこの二人は意外と気を遣えるというか、文句言いながらも過保護なとこあるよね。
ツンデレっていうの?
ねぇ、ツンデレっていうの?これ…どっちかっていうと二人ともヤンデレなのかなって思ってたんだけど。
何せ好きな子に対する態度とか見たことないから、真相は闇の奥ってやつだね。

「次」
「ん?」
「降りるぞ」

なまえ、お前いま何も考えてなかっただろう なんて失礼なことを言う古橋に掴まりつつ、開いた扉の外へ出る。
人混み超怖いからね。
そういう時古橋は安定感凄いから、掴まってると安全なんだよね。
あと下手なことで怒らないし、気付いたら支えてくれるし。

「ん、ありがと古橋」
「ああ」
「あっ!花宮!花宮は!?」
「バァカ、後ろにいるっつーの」
「あれ…」
「お前じゃないんだから、迷子になんてなるかよ。つかはぐれても康次郎が飛び出てっからすぐ見つかんだろ」
「おい飛び出てるってなんだ、飛び出てるって、おい」
「よく考えたらいつも飛び出てるのまだあと三人もいるんだよね、しかも全員人相悪いし。怖っ」
「お前、極妻みたいな目で見られてんじゃねえの」
「うそっ!?」
「…ふはっ、冗談だって」

あ、花宮笑った。
今日花宮の笑顔初めて見たなー、なんて思いながら、私たちは会場を目指して歩いた。


つづくよ
20140128



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