幼馴染健ちゃん



漫画や小説なんかではよく、親同士の仲が良くて、家が隣同士で、しまいには部屋まで隣合っていて…なんて幼馴染を見かける。
小さな頃から仲が良くて、兄弟のごとくお互いの成長を見てきた、というような。
そんなの現実に存在するのかと思うけれど、残念ながら、私と健ちゃんがそうなのだ。

「健ちゃーん」
「………」
「健ちゃん、起きてー」
「……………」

ありがちなことに、朝に弱い健ちゃんを起こしに毎朝家まで行くんだけど、これがまぁ中々起きないんだ。
高校進学手前、ご両親が都外に引っ越しちゃって、今健ちゃんはこの家にほぼ一人暮らしなんだよね。
だからまぁ、心配な部分も出てくるわけで。
おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしている私は結構自由がきくし、何より今まで健ちゃんのお母さんに良くしてきてもらったから、その恩返し代わりにでもと思って、ちょっとした世話を焼いている。
ウザがられたらどうしようと思いながらもね。

「うーん…」

さっきから起こしているんだけれど、どうにも起きる気配が無い。
まぁ…毎日遅くまで部活してるわけだから、疲れてても当たり前だよね。
とか思ったけどさ、いや、別に部活があろうが無かろうが、健ちゃんはよく寝てたわ。
それはともかく、どうしよう。
帰りと違って行きは古橋がいないから、誰かに迷惑がかかることは無いんだけど、何より私が困る。
バスで駅までいく計算で朝は動いているので、時間が狂ったら終わりなんだよね。

「健ちゃーん…」
「…んん」
「!」

お、もしかして起きた?
布団から顔を出した健ちゃんは、まだ寝ぼけ顔のまま、私をみていた。
どうでもいい話なんだけど、寝起きの健ちゃんはやたらセクシーで目に毒なんだよねぇ。
このくせ毛好きなんだけどなぁ。
オールバックはなんか龍が如く的な感じで怖いって言ったことあるけど、やる気がちげんだよ なんて言ってがっつりワックス使ってました。なんと。

「…朝?」
「朝だよ」
「暗いけど…」

いや寝てる時に明るくするとあなたが怒るからカーテン閉めてるだけですけど。
健ちゃんの目が開いたのを確認して、しっかり二重につけられた遮光カーテンを開けると、死んでしまう! なんて言って布団に潜る彼は、やっぱり結構子供っぽいのかなと思う。
子供っぽいだけなら、まあ、あいつらにも言えることなんだけどね。
主に花宮。あと、原。
古橋はじじくさい。

「ほら、朝ごはん!」
「んんー…ん?え、もう作ったのか」
「めんどいから家で作ってきて、さっきレンジ借りてチンした。味噌汁昨日の奴あっためたけど飲むよね」
「ん、飲む」
「おっけー、ちょっと待ってて」

健ちゃん、放っておいたら朝ごはん抜いてくるからね、ここばっかりは私がどうにかしなきゃいけない。
まあそんなこと言いつつも、結局お昼のお弁当も晩御飯も作ってるんだけどね。

「はいどうぞ」
「ありがとな」
「はーい」
「……なぁなまえ?」
「ん?」
「いや、なんでもない。いただきます」

ご飯をよそって味噌汁を出すと、お礼とともになんだか意味深な呼びかけ。
なんでもない、は、結構使うよね、健ちゃん。
まあ本人が何ともないなら、無理に聞く必要も無いか。

「ね、今日の卵焼きおいしいでしょ」
「うん、美味い」
「ふへへ」
「(お前は嫁さんか、って、言ったら照れそうだからやめておこう)」


20140121



前へ 次へ