好きな女



「ねえ花宮」
「んだよ」

 最近、よく思うこと。

「顔いいね」

 私がそう伝えると、花宮は一言。

「お前……当然のことをなに当然のように言ってんだ……?」
「だよねそういう反応するのが花宮だよね可愛くなっ」
「逆になんて答えたら可愛いんだよ」
「可愛くなりたいの?」
「うるせえ黙って答えろ」
「え……それはまあ、うーん……『そ、そんな、俺は別に……っ』みたいな感じでさあ」
「俺がそんなんやってたらキモいだろ」
「一理ある」

 今は花宮の家にいるので二人きり。
 まあ、だからこんなこと言えるんだけど。
 最近、よく思うのだ。花宮の顔がいいなって。恋すると女の子は可愛くなるっていうけど、男の子はカッコ良くなるんだろうか。

「ていうか、本読みながら会話できるのすごいね。私は無理かも」
「ああ、出来がちげえからな」
「かっちーん」
「一哉みてえだな」
「真似した」
「だろうな」

 じっと本の方だけを見つめる花宮を見つめる私。
 なにしてんだろ。見慣れた顔なのに。

「なに見てんだよ」
「バレた?」
「バレるだろ」
「いや本の方ばっか見てたから……」
「視線はバリバリ感じるだろ」
「そっか」
「で、なに見てんだよ」
「いや、顔がいいなってひたすら思ってた」
「そうかよ」

 すると、花宮はパタンと本を閉じてこちらに向き直った。

「なに?」
「いや?ツラがいいなと思っただけだ」
「……ずるい、仕返しだ」
「お前は散々言うだろうが。なにが仕返しだ。自分だけ恥ずかしいと思ってんのか」
「花宮は恥ずかしくないでしょ」
「多少は照れるだろ」
「そんなことある?」
「ある」
「なんで?」
「なんでもクソもねえ」
「ねえなんでなんでなーんで?」

 しつこくすると、面倒になって花宮は折れる。いつもそうだ。
 ため息を吐いて、花宮はボソリとつぶやく。

「好きな女に褒められたら、当然照れるだろうが」

 好きな女。
 そのワードに頭が少し熱くなる。

「私、花宮の好きな女なんだ」
「今更だろ」
「うん。へへへ」
「気持ち悪いな」
「ひどい!」
「嘘だよ」

 そう言って頭を撫でてくる花宮の手は、私よりもずっと大きくて、ひんやりしていた。

「手、冷たいね」
「心が温かい人間だから仕方ねえ」
「うわ、今日イチ冷めたわ」
「おい」
「でもまあ、花宮の手、好きだよ」
「そうかよ」
「うん」

 そうして私たちは、夜ご飯まで一緒に過ごして、その日私は花宮の家に泊まったのでした。



20230111



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