恋をすると女の子は



「なまえさあ」
「うん?」
「最近エロくなったよね」

 一哉の突然の一言に、私は飲んでいたスポーツドリンクを盛大に吹き出した。
 吹き出したスポーツドリンクはすべて、横に座っていたザキにかかった。

「うわっ、きたねえな!」
「ご、ごめん……一哉が変なこと言うから……」
「変なことっていうかさー、事実じゃん? 前までは俺、なまえのこと抱くとか考えられなかったけど、最近だと抱いてもいいなって思えるもん」
「まず抱くことを考えないで」
「今が暇な冬休みで遊べてなければ抱いてた」
「やめて」
「最低だなお前」
「でもザキも思わない?」
「いや、まあ……」
「思うの!?」

 そんな、唯一の良心であるザキがそんなこと考えてるなんて思いたくない。
 するとザキは、頬を掻きながら言った。

「可愛くなったかな、とは思う」
「……前は可愛くなかったのね」
「いや! そういうんじゃねーって! 前も可愛かったけど! 可愛かったけど、前より可愛くなったな……ってなに言わせてんだ!」
「ザキが勝手に言ったんじゃん」
「そっかあ、ザキは私のことを可愛いと思ってたのかあ、へえー」
「お、思ってな……なくはない……」
「ザキのそういうとこ好きだよ私は」

 そんな風に休憩中ふざけていると、花宮がトイレから戻ってきた。

「なまえお前今弘のこと好きとか言ったか?」
「出たよ地獄耳」
「そういう好きじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
「なんで急にツンデレキャラ」
「ノリのよさをほめてほしい」
「ノリがよくて勉強も運動も出来て可愛くてえらいでちゅねー」
「そ、そんなに褒められると照れるなあーもー!」
「いや、今のは馬鹿にされてるだろ」
「一哉お前なまえについてこれ以上語るんじゃねえ」
「惑わされてるやつもう一人いたよ」
「メンゴメンゴー」
「保護者かよ」
「私の保護者は健ちゃんだけだもん」
「保護されてる自覚あんのかよ」
「そうだ保護者は健太郎で俺は彼氏だ」
「めんどくせえなこいつら」

 そんなことをしていると、部室に健ちゃんと康次郎がやってきて、なんやかんやいつものメンバー集合となった。

「なにを話していたんだ?」
「康次郎には関係ない!」
「酷いな」
「なまえが可愛くなったねって話ー」
「言わないでよ一哉!」
「ほう。まあ、たしかに、と思える話だな」
「康次郎まで」
「おい康次郎なに同意してんだ」
「花宮お前セコムか」
「セコムじゃねえよ彼氏だよ」
「セコムだな」
「保護者の次はセコム扱いかよやめろ」
「事実なんだよねー」

 一哉がそう言うと花宮は一哉の頭をスパンと一度叩く。

「いってー」
「健ちゃん、健ちゃん」
「なになまえ」
「私可愛くなったの?」
「うん、それは思うよ」
「健ちゃんが言うなら本当なんだね」
「出たよ健ちゃん絶対主義」
「なまえ、言っとくけど俺の意見は絶対じゃないからね」
「えーそうかなあ」
「そうだよ」

 そんな会話をしていると、なにか考え込んでいた花宮が顎に添えていた手を離し、なにか思いついたようでこう言った。

「恋すると女は綺麗になるって言うよな」

 恋をすると……? ああ、そうか。納得。私、花宮に恋したもんな。
 にしても、それを自分で言っちゃうあたり、花宮だよね。

「そういうことね」

 一哉も納得したようだ。お菓子を食べながら、頷く。

「……花宮って、たまに恥ずかしいよね」
「どういう意味だ」
「なんでもない」
「なんでもなくないだろ」
「ほんとになんでもない」
「こうしてると夫婦漫才みたいだな」
「健ちゃん!」
「冗談だよ」
「もー」

 そんなこんなで、ちょっとばかり恥ずかしいまま、私たちは体育館へ向かいました。



20200610



前へ 次へ