古橋と帰り道



「あぁー…」
「どうしたんだ」

部活が終わったら、大体みんなで駅まで向かって、そこから違う線で帰る。
ザキはわりと近所だからチャリだけど。
原は駅近高層マンションに住んでいるので、方向は一緒。
で、駅まで行ったら花宮とは逆方向に、私と健ちゃんと古橋で帰るんだけど。

「なんかね」
「なんだよ」
「古橋と二人ってのがねえ…」

健ちゃんがお休みだと、古橋と二人で電車に乗って、同じ駅で乗り換えて、同じ駅で降りなきゃいけなくなるんだよね。
同じ学校の同じ部活で同じ時間に帰るのに、バラバラに帰るってのも変な話だろうから、まぁ当たり前なんだけど。

「なんだ俺と二人じゃ不満か」
「ちょ、せめて無表情やめてなんか怖い。いや、まぁ不満ってわけじゃないけど、なんかね」
「瀬戸がいないことが不満なのか」
「それもあるね」
「あとはなんだよ」
「えー…」
「お前、今何か失礼なことを考えただろ?」

そんなことはないけど。
なんか、今日の古橋グイグイくるな。
こう見えて結構知りたがりな奴ではあるけど、ううん、気になったからってこれ、言ってもあとあと問題とかないよね。
まぁ古橋だし。

「言うんだ」
「構えんでいいわ。なにそれウルトラマン?」
「それで、どうしたんだ。なんか嫌われてるみたいで嫌だろ」
「いやそれは無いから。まぁ、大したことじゃないんだけど、気になったんだよね」
「なんだ」

ううん尋問モード。
無表情がかえって怖いよ。

「二人で帰ってたら、古橋のこと好きな子とかに勘違いされるかなぁって」
「………」
「そうなったら、なんか古橋かわいそうだなって、思っただけ」
「…いや、むしろそれは、なまえが痛い目に合うんじゃないか?どちらかというと」

言っとくけど今までのは私何も悪くないアレだからね。
あと、かわいそう っていうのは、私なんかと付き合っている、というような印象を持たれるのがかわいそうって意味であって。
それによって古橋が嫌われるからかわいそう、って意味じゃないんだけど、多分これ、わかってないよなぁ。
いや、表情が無いから実際何考えてんのかよくわかんないんだけどね。
古橋は、なんだかおとなしくなった。
あー、やっぱ言わなくてよかったかな、古橋をかわせるとは思えないけど。

「まぁ、気にしないでよ」
「ん?」
「古橋が別に何とも思わないって言うなら、余計なことは言わな、むぐっ」
「今のが余計なことだ」

な、なんだ、口元が古橋の手で覆われて、言葉を発することが出来ない!
あと無表情やめてなんか怖い。
しばらくそのまま固まっていただろうか。
帰宅ラッシュで混み合っている電車内、思い返せば私は何てことを言ってしまったんだ、なんか恥ずかしくなってきた。
サラリーマンの壁で見えないけど、同じクラスの人とかいないよね、大丈夫だよね。
まるで私が片想い楽しんでますみたいになってる気がするんだけど、違うからねこれ。

「むむー」

ふるはし という発音が出来ない。
話せないしなんか恥ずかしくなってきたんだけど、ほんと手を離してほしいんだけど古橋さん、ねえ。
視線で訴える作戦でいくか、あ、うわなにそっぽ向いてんだよ。
腕をぺしぺし叩いてみるも、ダメ。

『次は〜新橋〜…』

ああ、もう降りる駅じゃないか。
やっと口元から手が離れる。
電車が止まると、次はナチュラルに私の右手をとって、改札口へ向かって歩き出す古橋。
待ってなにこれ、なにこれ。

「…ふ、古橋さーん?」

そして駅を出て、黙々と歩き出す。
やばい、なんか機嫌悪くさせたとかではないよね。
依然、手は繋がれたまま。
マジでクラスメイトとかいないよね、誰にも見られてないよね、ねえ。
ここから汐留まで歩くというのに、まさかずっとこのままなの?
手汗とか心配なんだけど。

「ねえ古橋、あの、」

前を向いたまま歩く彼は、今も表情は無いのだろうか。

「なまえ」
「え?」

もうすぐ私の家に着くという時。
歩いたまま、古橋は口を開く。

「別に俺は、勘違いされても構わないぞ」



意味深ね。
20140119



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