初デートの日、帰り際に
『次のデートはお前がプランニングして俺を楽しませろよ』
なんて、地味に言われていたことを、今、ベッドの上で思い出した。忘れていた、完全に。なんてことだ。
あの星空デートからおよそ二週間。
部活も今年度いっぱいは落ち着く予定で、土曜の練習がない今、二週間も彼氏を放っておくのはいかがなものかと、自分でも思う。
部活もしてない学生だから、そうそうお金を使うようなデートを毎週のようには出来ないのが現状だけれど、それでも、おうちデートとか、方法はいろいろあるだろうに。
うーん……具体的になにをしたら、花宮は喜ぶんだろうか。
たしか、花宮の部屋にはダーツが置いてあったような気がするけれど、本格的なダーツを出来るところなんて、いったいどこにあるのだろう。
今時のバーにはダーツが置いてあると聞いたことがあるけれど、私たちは未成年だから、そんなところに行けるはずもなくて。
そうしたら、どこだ。ゲーセン?
いやいやいやいや。あの素敵な星空デートのお返しにゲームセンターは絶対ありえないでしょ。自信をもって言える。間違いなく嫌われる。
「あ……」
もういいや。わかった。花宮のおうちでデートして、ダーツを教えてもらおう。
花宮は存外、他人にものを教えるのが好きなのだ。優越感をお手軽に味わえるから。
うん。決めた。
お返しのデートはおうちデートに決まり。
私には花宮のように素敵な宝物はないから、あげられるものがない。そうしたら、もう、花宮に私がしてあげられることは、ひとつ。
花宮が好きなことを一緒に楽しむこと。
それしかないと思った。
花宮が好きなカカオ100パーセントのチョコレートを食べながら、ホットミルクでも飲んで、花宮の好きな映画を観て、それから、花宮の趣味であるダーツを一緒にする。
名付けて「花宮至れり尽くせり大作戦」。
「もしもし、花宮? 今日暇?」
急な電話に少し戸惑っているようだけれど、そんなのは私の気にすることじゃない。
『暇だったらなんなんだよ』
「今日花宮ん家行っていい?」
『急だな』
「私はいつでも特急です」
『まあ、来てもいいけど、勉強道具持って来いよ。テスト近いんだから。教えてやるから』
「う……今日は勉強はなしなの!」
『土日に勉強しねえでいつするんだよ』
「いい子ちゃんか! いいの! 今日はなんと言われても勉強はしない!」
私がそう言うと、花宮は「泣きを見ても知らねえぞ」なんて言っている。花宮は勉強しなくても成績トップだからいいよね! もう!
「と、とにかく! えーっと……今12時だから……13時には着けると思う」
『わかった』
「じゃあね!」
電話を切った。一時間後に行くことになっちゃったけど、果たして準備は終わるのかな。
一応彼氏に会うわけだし、化粧もしていかないと……いや、普段学校ではすっぴんだから、あんまり意味ないけどさ。
とりあえず、準備に取り掛かろう。
なまえから突然の電話があった。
話という話はしていないが、聞くところによると、今からおよそ一時間後にうちへやってくるらしい。
おおよその予想はつく。
おそらくは、デートだろう。
要件を言わないことでサプライズ……とか考えているんだろうが、俺の勘の良さの前ではそんな計画は無意味だ。
ああやだやだ。頭がよくて困るなあ。
やれやれ、俺はあいつよりも大人だから、ここはなまえに合わせてやるとするか。
それから約一時間半後。
なまえがうちのインターホンを鳴らした。反応を楽しむために、インターホンの画面の前で少し黙って眺めた。不安そうにおろおろしているなまえを見て満足したので、インターホンの呼び出しに応える。
わりかし大荷物でやってきたなまえ。なにをそんなに持ってくる必要があったんだ。
「花宮! お母さんいる?」
「いねえ」
「なんだ、お土産持ってきたのに。おじゃましまーす!」
何度か来たことがあるだけなのに、なんかもう自宅のように家に上がり込んでくるなまえはいっそ清々しい。
「リビングでいいか?」
「DVDプレイヤーあるならどこでもいい」
「なんだよ、DVDなんて持ってきたのかよ。まあ、俺の部屋にもあるけど」
「じゃあ花宮の部屋!」
ご指名があったので二階に案内する。
部屋に入ったなまえが一にしたことは、まず荷物を置くこと。そして二にしたことは、ベッドにダイブすること。
「おま、なにしてんだよ」
「疲れたの! 急いだから! え? 花宮こういうの気にするタイプだった?」
「いや、気にはしねえけど。お前だし」
「お前だしってなに! 私特別?」
「特別だ。でも降りろ」
「えーなんで?」
ついうっかり襲いそうだから――とは言わないでおいた。そんなことを言って逃げ出されでもしたら困る。
「いいから降りろ」
「えーん」
「えーんじゃねえ」
「で、今日はどういうつもりだよ」
「え、えっと……おうちデートをしにきました」
やっぱりそんなことだろうと思った。
リュックを開けて、
「パジャマも持ってきた!」
なんて言っているが、なんだこいつ、泊まりに来たのか。おいおい、どうなっても知らねえぞ。
いやまあ、俺は理知的で理性的な人間だから、そんな軽率な間違いは起こさないが。
「パジャマにお菓子に映画のDVD! 花宮ホラー好きでしょ。適当に借りてきたの。お菓子もほら、チョコレート! それとパジャマは頭悪い女っぽいゆめかわなやつ!」
「あのなあ……」
「え? だめ?」
「なんなんだ、今日は俺に尽くしにでも来たのか」
「そのつもり。今日は私は花宮のラブドール」
「その言い方やめろ」
「なにさ! オナホールって言ってないだけましでしょ!?」
「大して変わんねーんだよバァカ」
なんなんだこいつ。本当に襲われに来たのか?
まったくもって行動の意味が解らない。
そんなこんなで、俺たちの二回目のデートが始まった。
20200411