気持ちの整理
ウィンターカップ予選も終わり、霧崎第一のバスケは今年は終わりとなった。
あのあとしっかり、
『付き合うってことでいいんだよな』
という言葉による確認があり、ちゃんと花宮と付き合うことになって、控室に戻った。
私が花宮の手を引いているものだから、みんな「どうした!?」となっていたけれど、私の、
『迷子捕獲しました』
の一言で、みんなは納得してくれた。
いや、たぶん納得はしてないんだけど、とりあえず悟ってもらった。さすがに、付き合ったなんてことは知らないだろうけど。さすがにね。
でも、健ちゃんにはラインを送った。
帰りのバスの中で。
『花宮と付き合うことになったよ』
その一言に、すぐに既読がついた。
『おめでとう。そうだろうと思ってたよ』
健ちゃんには、はなから全部ばれていたみたいだった。
ああ、これ、みんなにも言った方がいいのかな。言わないといけないのかな。なんか追及されても困るよな。
よし。うん。言わないでおこう。
花宮にもそう伝えよう。
ミニバスなので、部員がぎゅうぎゅうになるから、いつも「間をとって俺の隣でいいだろ」とか言われて、私は毎度花宮の隣に座ることになっている。間ってなんの間だろう。
後ろの座席には健ちゃんと康次郎が座っている。
隣で寝そうになっている花宮を小突いて、ひそひそ声で声をかける。
「ねえ」
「なんだよ」
「付き合ったことさ、みんなには内緒にしない?」
「……なんでだよ」
「え……いや、いろいろ聞かれたら面倒だし」
「はあ?」
え、なに、気に入らなかった?
そんなに顔しかめることもなくない?
すると、花宮は立ち上がって、後ろを向いた。
「どうした? 花宮」
康次郎が心配そうに花宮を見上げた。
「……おいお前ら、聞け」
花宮はその威圧的な声音で、みんなの注目をひとところに集めた。
部員たちは叱られるのを恐れてか、少しざわつく。
「俺は、今日誠凛に負けた。格好が悪いと自分でも思う。あれだけ啖呵を切って負けたんだからな……負けた上に、俺はもう一つ格好悪いことをした。俺はさっき、なまえに告白した。負けたのにだ」
待ってそれ言っちゃうの?
私内緒にしていようっていまさっき言ったよね?
しかし、花宮は続ける。
「しかも、なまえはこんな有様の俺にOKの答えを下した。酷いよなあ。振ってくれればただの負け犬になれたのに……だが、そうなったことで俺は一つ考えた。次、あいつらに勝って、今度こそ、全国への切符を手にすればいいんだと。だから……
来年は、勝つぞ。
そのためには、お前らの手を借りることになる。……頼んだ」
そうして花宮は軽く頭を下げて、どかりと席に座りなおした。
え、ええ……? 顧問の都川先生も運転手さんもいるのに、そんなこと言ってよかったの?
それに「頼んだ」って……
花宮がひとにものを頼むだなんて。
「花宮……」
康次郎が後ろから声をかけてくる。
「お前には悪いと思ってる。すまん」
花宮は康次郎の言葉を聞くことなく、そう言った。そう、だよね。康次郎も、私に告白してくれたひとりなんだよね。
しかし、康次郎はその花宮の言葉を否定した。
「違う、そうじゃない。俺はおめでとう≠ニ言いたかったんだ」
「……正気か?」
「正気だとも」
「俺は抜け駆けしたんだぞ」
「そんなことを言ったら、俺はもっと先に勝手に抜け駆けしているだろう。この恋が実らなかったのは俺の力不足だ」
「……なにいい子ちゃんぶってんだ」
「いい子ちゃんとか悪い子ちゃんだとか、そういう問題じゃない。悔しくも悲しくもあるが、なまえと花宮が付き合うことになったのは、素直に嬉しく思う。だって、ふたりとも、俺の大好きなひとなんだからな」
「なんだそれ」
「とにかく素直に俺のおめでとう≠受け取ってほしい」
康次郎のその言葉に、花見yは短く「ああ」とだけ答えた。
「ああ、それとさ」
そして、健ちゃんが声をあげる。
「さっき、花宮、俺は負けた≠チて言ってたけど、それちょっと間違ってるよ。性格には俺たちは負けた≠カゃない? これからもお前に協力してくってのに、俺らのこと忘れられちゃあ困るぜ」
「ふはっ……それもそうだな」
なにこれ、すごい青春じゃんか。
ひとさまが青春してたらめっちゃむかつくくせにね。
まあ、たまにはこういうのもいいか。
「おいおいザキー! 泣くなって!」
「な、泣いてねえ!」
「泣いてるっしょ」
「万が一泣いててもこれは嬉し涙だ!」
「なに!? なんでザキが泣いてんの!?」
「泣いてねえって!」
「あのねーなまえ、ザキはむぐっ」
「お前余計なこと言うんじゃねえぞ」
「え、なに!? ザキがどしたの!?」
「なんでもねえ!」
わーわーと騒がしくなる車内。
ああ、よかった。さっきまでは、どんより暗くて、空気がピリピリしてたから……みんな、少しは元気になったかな。
来年が最後のチャンス。
絶対に勝とうね、みんな。
20200322
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