※6年ぶりの更新なので、文体やら癖やらが変わってるかと思いますが、ご了承ください。



「花宮、ほんとに秀徳戦は捨ててよかったの?」

 私が問うと、花宮は鼻で笑って答えた。

「いいに決まってんだろ。秀徳なんかとガチでやったって疲れるだけだからな。それに、誠凛には勝てる」
「……誠凛、ココ最近一気に力つけてるみたいだよ。去年の時点で厄介だったのに、一年が強力で……それに、幻の六人目もいる。分析までは任されたけど、作戦立ては花宮が担当でしょ。本当に大丈夫?」

 すると、話を横で聞いていた一哉が、

「ほらなまえ、見て見て」

 と言い、ザキにエルボーして見せた。

「いっってえな!おい!なにしやがる!」
「これがあるから大丈夫だよって言いたかったんだよね」
「口で言えや!」
「ああもう、はいはい、お得意のラフプレーね。わかったわかった。もう私はあんたたちに何も言いませんよっと」
「わかってて見逃してるからなまえも共犯者だよん」
「悪いことしてる自覚はあるのね」
「あるよもちろん。その上でやってるんだし。ねー花宮」
「そうだな」
「そーれ、みんなで!ひとの不幸はー?」
「蜜の味ー!」
「なまえ以外乗ってこねーじゃん面白くねー」

 なんだか、私も変わったな……昔はこんなじゃなかったのに。人の不幸は蜜の味なんて、そんな言葉を合言葉にするような悪い子じゃなかったはずなのに。おかしいなあ。
 染まったな、完全に。花宮色に。

「おいお前ら、遊んでねえで会場行くぞ」
「はーい」
「いってえ……原のヤツまじでやりやがったな……」
「メンゴメンゴ」

 ちなみに、なのだが。今回の大会から、私はあるものを手に入れて臨んでいる。
 それは、霧崎第一男子バスケ部ジャージだ。制服の上から上着を羽織るスタイル。うん、悪くない。
 ワガママ言って私の分も特注で作ってもらったのだ。予算で。

「なまえ」
「ん? なに、花宮」
「それ=@似合ってるぜ」

 私のジャージを指差して微笑む花宮。あ、今の写メっておきたかったな。なんてレアなの。

「ありがと」
「これで正式に霧崎第一男子バスケ部≠フ肩書きを得たって感じだな」
「いやーな肩書きだね。でも、みんなとお揃いは嬉しい」
「ふはっ! そうだな」

 私の頭をぽんぽんと叩いて、花宮は会場へと足をふみだした。
 ああ、ついに。ついに来たんだ。
 WCへの切符をとりに。

 勝つのは、私たち──霧崎第一。



 会場入りすると、隣、つまり誠凛高校のベンチがまず目に入った。相田ちゃん……いつぶりだろう。久しぶりに会うなあ。
 でも、今日は話せないだろうな。
 だって、私たち霧崎第一高校の男バスのやり口は、とっても汚いから。相手にとって、それは去年からわかりきってること。木吉鉄平の怪我……まだ、よくないんだな。膝にテーピングをしてる。
 こちらにとっては、いつぶりかのお遊び、って感じだけれど、あちらにとってはこれ以上ないくらいの因縁の対決だ。
 空気がびりびりする。
 向こうチーム、清凛の視線が痛い。

「みんな、今日はきっとあっちは木吉鉄平も出してくるはず。それに期待のルーキーはアメリカの本仕込みで、キセキの世代にも劣らない逸材。加えて幻の六人目もいる。気は抜けないよ」
「いつになく真面目だな、なまえ」
「当たり前だよ! だって……これが全国への切符に繋がるんだよ?」
「そうだな」
「そうねー」
「もう! なんでみんなそんなに冷静なの!?」

 みんなにそう問うと、花宮は古橋やザキらと顔を見合わせて、

「確実な勝ち≠ェそこにあるだけなのに、なにを不安になる必要がある?」

 と不敵に笑って言った。

「う……」
「ふはっ! 言い返す言葉もねえか。安心しとけ。俺たちは強い。ラフプレーなんかしなくても、充分強いから心配すんな。俺を誰だと思ってる?」
「……悪童=v
「そう、俺は悪童♂ヤ宮真だ。そしてこいつらはみんなこの俺が育ててきたチームメイトなんだよ。あっちに強い選手がいる? ふはっ、そんなのこっちだって一緒だろ。全国大会への切符は持ち帰るから、お前は黙って座って待ってろ」

 確かに、この先私がみんなに出来ることと言えば、応援すること。祈ること。それしか出来ない。
 歯がゆい。
 今日という日のために、注目を浴びている清凛バスケ部についてはかなり観察・分析してきたつもりだ。そして、私が作ったデータをもとに、花宮がすべて上手いことやってくれる。花宮が、そう、彼が、全部やってくれる。信じるしかない。信じるしかないのだ。
 花宮、みんな……本当に、負けないで。
 どんなラフプレーしたっていい。
 誰を怪我させようが、殺さなきゃそれでいい。
 巣≠張るまでは――
 それがうち、霧崎第一≠フやり方なんだから。

「うん……待ってる。絶対! ……絶対、勝ってね。信じてるから」

 みんながベンチに座った私の頭をポンポン叩いてコートの中に入っていった。
 主将の花宮は、一番最後。

「じゃあな」

 ふ、と不敵な笑みを浮かべて、花宮は行ってしまった。

「……大丈夫。大丈夫」

 きゅっと、みんなとお揃いのジャージの裾を握る。顧問の都川先生が、私の心情を察知したのか、肩に手を乗せてくる。
 普段は練習も見に来ないし練習試合くらいなら顔も出さないけれど、一応この部にも顧問教師が存在するのだ。うちの部のやり方は知っているけれど、特に口は出してこない。
 結局、生徒も教師も類は友を呼ぶ≠ネのだ。

「勝ってね、みんな」

 試合前の練習が、始まる。



六年ぶりの更新です頑張ります
20200320



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