WC予選誠凛戦



十一月七日。
ウィンターカップ予選、誠凛戦。

「うぁぁぁ…」
「なまえうるさい」
「相変わらず広い」
「ウィンターカップ予選会場だよ、狭かったら萎えるし」
「一人で歩いたら絶対迷子になる自信ある」
「雑魚じゃん」
「一哉はでかいから良いよね、人混みでも周りがよく見えるから」
「で、その俺よりでかいのがゴロゴロ転がってんのがこの会場なんでしょ?」
「そんなにいる?」
「190オーバーくらいなら結構いるんじゃない」
「そっかなぁ」

会場は人ごみに溢れてて、移動するだけでも結構大変。
の、筈なんだけど…
そんな中私と一哉は人の波を掻き分けて、やっとこさ入った中から、体育館の外を目指していた。
なぜか?
ジュースを買いに行くためだ。

「あっ、なまえ」
「へ?」

すると、外に出るなり名前を呼ばれる。
一瞬どこからの声だか分からなくて驚いたけど、秀徳高校じゃん という、いかにも嫌そうな一哉の呟きで声の主を特定出来た。
本当にすれ違うところで。
横を見れば、つり目のにーちゃんが。

「かずなりいい!!」

高尾和成。
夏休み明けのあの日以来に会う、私のハトコだ。
秀徳高校のジャージはオレンジだったっけ、忘れてたけど、そうかぁなるほどなるほど、うん。似合うね!
思わず飛びつけば全力で受け止めてくれるのが和成だ。
押し倒してるわけじゃないけど、半ばそうと言っていいくらいの勢い。
もちろん和成は腰をついた。
というか、座りこむつもりで受け止めた?みたいな。

「ちょ、なんで今日こんな積極的なんだよなまえ!いっつも冷たいくせに」
「別に冷たくないよー、変なメールばっかり送ってくるから鬱陶しいと思ってるだけだよー」
「ひっでーんだけど!ねえ真ちゃんどう思うこの子!」
「知らないのだよ」
「えー」
「連れないなぁしんちゃん」
「その呼び名で呼ぶなみょうじ!」

久々の再会に嬉しくなっていると、一哉に肩を叩かれる。

「なまえ、早く行こ」

そうして、それにだぶるように、もうひとつ声。

「高尾、早く行くぞ!」

ふと上を見れば、一哉と変わんないくらいの背の、めちゃくちゃかっこいい人がいた。
わー金髪だぁ。
まあんなこと言ったらうちの一哉なんて脱色しまくりで紫とか乗せちゃってるんだけどね。
シャンプーするたび紫落ちていくって嘆いてたわ。
じゃあやめなよそれ。
あんた普通に金髪のが似合うよ。
一年の頃は普通に金髪だったのになんで紫にしちゃったかなぁ。

「宮地さん見て!じゃーんこれがハトコのなまえですぅっ」
「はぁ?あー、いっつも言ってる子か。へー、よりにもよって霧崎第一だったんか」

宮地?宮地…
あぁ、今年からレギュラー入りした、あの宮地清志か!
近くで見たことなかったけど、いやぁこんなにイケメンだったんだね、知らなかった。
めっちゃ王子様っぽい。
ていうか和成、いつも言ってる って何。
私の存在そんなとこまでばれてんの、ねえ。
宮地清志もよりにもよってとか、霧崎第一はどんだけ悪名高いわけ?
完全に花宮監督様のせいだね。

「なんか霧崎第一の生徒っぽく無いな」
「ちょ、どういうことですかそれ!」
「? 褒めてんだよ」
「どこが…」
「いや、だって普通霧崎にこんな可愛い感じの子がいると思わないだろが」
「ブフォッ!ちょっ宮地さん天然!」
「は?何が」
「いや今のは無いっすよ!色々」
「何笑ってんだよ」

わかった。
宮地清志は頭おかしい。
なんか…天然たらしだこの人。
ダメだ近寄ったら殺される、精神的に。

「……か、一哉」
「んー?ああー、やっと行く気んなった?ほら立ちなよ」
「うん…早く行こう」
「それさっきから俺が言ってたのに」
「いやマジでごめん。バイバイ和成、しんちゃん。試合がんばってね」
「はいはぁーい」
「ふん、敵に向かって頑張れなんて言葉はおかしいのだよ」
「俺は無視か?」
「知らない、私、宮地清志イヤ」
「はぁ?へー、あっはっは良い度胸してんなー」
「いやだ来ないで頭触んないで」

笑顔の和成と悪態つくしんちゃんを横目に、一哉の腕を掴んでその場を逃げるように去った。
なんだか呼び掛けるような宮地清志の声も聞こえたけれど全て無視した。

「なまえってちょろいよね」
「なにが!」
「ときめいた奴には冷たいから、すぐわかるんだよねー」
「いやときめいてないよ」
「嘘つき。まあ普段は仲良いけど、結構いざって時とか花宮にも冷たいじゃん?」

あんたどこまで知ってんの。
え、まさか花宮言ったりしてないよね、まだ確定もしてないのにバラしてないよね。
それとも一哉はエスパーなの?
なんで私が花宮にときめいてたの知ってんのさ。

「…うん、まあ、温かくはないよね」
「なにそれアホっぽい」
「うるさい!早く人数分ジュース買うよ!元はと言えば一哉がジュース飲みたいとか言うからこんなんなってるんだから!」
「え〜俺のせい?」
「あんたのせい」
「ちぇー」

もしくは、なにか。
私がわかりやすかったとか?
いやいやいや、それは嘘でしょ。
だって私別にそんなに分かりやすい態度とった覚え無いし…あ、ときめくと冷たい ってのがそういう態度ってこと?
逆に分かりやすい?

「ううーん無いわぁ…」
「え、何が?あっそうだ、さっきあったことザキに言ってもいい?」
「? 言えば」
「わかった、じゃあ花宮にも教えとくねん、なまえが秀徳の宮地清志にときめいてた って」
「それはやめて」
「なんで?」
「面白がってないで」
「そんな怖い顔しないでよ、冗談、冗談だってば〜」

ほんと、嫌な冗談はやめて欲しい。
ってかマジでシャレになんないから、この間のことがあった上で他の人にときめいた って花宮に言うとか…



「おっせーよバカ共」

皆のところに戻ると、案の定花宮はイラついていた。

「いやー、メンゴメンゴ。なまえがちょっとね」
「なまえがどうしたんだよ」
「な、なななんでもないから気に」
「ときめいてた」
「一哉ァ!!」
「は?」

そして案の定、バラされた。
一哉のやつ、もう全部知った上でやってるんじゃなかろうか と思えてきた。
いや、少なくとも私が花宮を好いてるのは知っててやってるんだろうな、くっそう…

「へえ?ときめきね」

やめてよ怖いからその顔。
ていうか雰囲気が、雰囲気がヤバイ。
なんか不機嫌!

「キセキの世代の緑間やら鷹の目の従兄弟くんもいるみたいだし、秀徳行けよ、そんなにイケメンが好きなら」
「ごめんなさいごめんなさい皆の方がイケメンですごめんなさい」
「皆だ?」
「訂正します。花宮の方が」
「ふはっ!わかればいいんだよ」
「あれ、ちょっと待って花宮って自分がイケメンだと思ってんの?」
「どういう意味だそれ」
「…いやまあイケメンっちゃイケメンだけど、そんなに言うほどじゃ…」
「くたばれ」
「冗談だよ」

康次郎も健ちゃんもまるで 触らぬ神に祟りなし とでも言うようにガン無視してるし。
助けてくれてもいいじゃんね…
なんて考えてたら、一哉がぶっ飛んだ発言をかましてくれた。

「てか、二人って付き合ってんの?」

経験豊富な奴はこれだから嫌だわ。

「………」
「……………」
「え、なんで沈黙なの」
「付き合ってない」
「付き合ってないね」
「ふーん、なんか、今のやりとり見てたらてっきり付き合ったもんだと思ったわ」

まあ、嘘では無いよね。
たしかに好きだよとは言ったけど、付き合ってはいないからね。
全部。全部終わったら、分からないけど。

「まだ、な」

花宮がぼそりと呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
また思い出して、ちょっとだけ顔が熱くなった。

20140314
20200319修正



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