あのあと、なまえを家に送り、家の前で少し話をしてさよならをしてきた。
好きです。私も好きです。
というやり取りのあとには勿論、付き合ってください というのが来るはずなのだが、そうはならなかった。
なぜならば、これから一週間も経たないうちにウィンターカップ予選を控えているからだ。

「全部終わった後にもう一回言うから、その時にまだ心変わりが無ければ付き合ってください」

俺がそう言うと、なまえは頷いていた。
お互いに同じことを考えていたようで、それを疑問に思うどころか安心したと言っていた。
なぜかと聞けば当然といったような顔をして、今すぐ付き合おうなんて言ったらビンタしてた との厳しい一言。
選択を誤らなくてよかった。

「あ」

そうして帰り。
汐留駅。
健太郎と康次郎の二人に出くわした。
まさか行き違いになるだろうと思っていたから、こんなバッチリなタイミングで会うだなんて考えてもいなかった。
それにしてもお前ら二人で並んでると随分目立つな、ちょっとした壁みたいだ。
なんて考えていたら、健太郎は少し申し訳なさそうな顔をしている。

「花宮が送ってくれたのか」
「ああ」
「悪かったな」
「別に悪かねーだろ」

謝る必要は無いと思うが。
こいつ、幼馴染を何か履き違えているんじゃないかと思えるくらいに世話焼きな時があるよな。
保護者か何かじゃあるまいし。
まあ保護者というよりかは些か、ガードマンに近いような気もするな。
果たしてさっき俺がしたことを、このガードマンは許すのか否か。

「なあ」

俺の言葉に、こちらを見る二人。

「どうした花宮」

康次郎の目尻が少々赤くなっているのが気になって、なんだかすんなりと言葉が出ない。

「さっきなまえに好きだっつってきた」
「あー、やっぱりか…」

健太郎は何と無く察していたらしい。
多分、こいつのことだから、どうなったのかもわかっているんだろう。
俺のことも、そしてなまえのこともよく知る人間なのだから。
すると、康次郎が なぁ と呼びかけてくる。

「なまえは、何て?」

そんな顔してるくせに、んなこと聞いてくんなよ。

「良い答えだった」

俺にとっては な。
息を吐く康次郎の肩を、健太郎が軽く叩く。
つーかバカかお前。
そうか じゃねえだろ。
何でそんな簡単に認めてんだよ。
毎日のように分かりづらいラブコールしまくってた奴が。
もっと俺を責めるくらいのことをするか、せめて嫌味を吐くくらいはしろってんだ。
イイコちゃんは嫌いだっていつも耳が腐るほど言ってんだろ。
この、バカ。

「花宮」
「…んだよ」
「おめでとう」
「泣きながら言われても嬉しくねーよバァカ」
「感動の涙だ」
「嘘つけ」
「今日はたまたま涙腺が緩い日なんだ、気にするな。あと俺はお前のこともなまえのことも大好きだぞ」
「…バカじゃねーの」
「瀬戸、見ろ、花宮がデレた」
「無理すんな古橋」
「してない」

本当に、無理しやがって。
ただ、そうだな。
こいつの言っている意味はよく分かる。
なまえのことは勿論好きだ。
けどお前らのことも好きなんだよ。
だからいつまで経ってもお前らが離れていくのも嫌で、なまえに告白すら出来ねーままで。
どっちかなんて選べない という状況だったのだ、今までは。
けれども変わった。
康次郎がぶつかって行ったことで。
ここでずっと指を咥えて見ているというのはなんだかモヤモヤするし、何より、一人が全力になっているから譲る というような状況は好ましくなかったからだ。
スポーツで手を抜くのだって一緒だろう。
相手にだって失礼だし、自分だって面白くない思いをするだけだ。

そうして、今回の試合が終わったのち落ち着いたところで付き合おうという話にまとまった ということを説明すると、二人は頷いていた。
まあ当然だわ と健太郎。
そりゃそうだ、浮かれて試合に手がつきません なんて言い訳は通用しないのだ、今回のは特に。

「おい」
「どうした花宮」
「…予選、勝つぞ」
「随分急だな。まぁ…そうだな、当然勝つに決まってるさ」
「花宮的には早く負けたほうが早く付き合えるんじゃないの、ってごめん殴んないで悪かったから、原みたいだったなごめんって」
「今のは瀬戸が悪い」
「滅多にねー失言だったよ」

まったく、負けたほうが早く付き合えるだって?アホかこいつは。
IQ160のくせに。
ソッコー負けて告白なんて格好つかねえ真似するかよ。
どうせなら勝ってからだろ。

「バァカ、ほら、早く帰れよ」
「ああ、忘れてた、そうだな」
「じゃあな花宮」
「気を付けろよ」
「お前らがな」

まさか日本一をとってから なんてことになったら少し遅すぎる。
色々と高望みしすぎだろうが。
毎日マネージャー兼助手としてチームを支えてるあいつに、全国の舞台を見せてやりたい気も、まあ、しなくもないか。



ゲスだって天才だって恋はするし友達もいます。バスケが好きです。普通の男子高校生なんです。
20140228



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