予選一週間前



「はーいおつかれー」

放課後、部活。休憩時間。
タオルやらドリンクやらを渡していく。

「おう、ありがとな」
「ザキやっぱ汗かきだよねぇ、タオル一枚で足りるの?」
「足りるわバカ!!」

いよいよ十月も終わり。
ウィンターカップ予選まであと約一週間というのもあって、皆どこかピリピリしている。
…って、そんなワケはなくって。
別に適当ってことじゃない。
勝てることなら勝って、行けるとこまで行きたいって気持ちは皆にある。
けど、なんて言えばいいんだろう。
結局ウィンターカップに出場するまではまだしも、そこで優勝すること自体は諦めてるっていうか、そこまで行けばもう十分っていうか。
決して悪い意味ではなくて、こう、リラックスして臨んでるっていうのかな?
あとはまぁ、花宮がいる限りは勝てるっていう自信と安心感っていうか…
なんやかんやで皆、花宮を主将として慕ってるんだよね。

「全く、お前達は緊張感が無いな」
「表情に乏しいお前に言われたくねぇよ!つか緊張感ってんなら、原の方がねーだろ!ガムくっちゃくっちゃしやがって!!」
「えー、ダメ?」
「ダメだろ!普通に!」
「ふはっ、んなもん、プレーに支障が無きゃ構わねーよ」
「そうだな」
「お前らなぁぁ」
「まあまあザキ落ち着いて、あっそうだチョコ食べる?」
「いらねーよ!っつか、マネージャーだって練習中のつまみ食いはNGだろ!」
「あ?いいんだよ。仕事が出来てれば」
「…花宮、お前案外ルーズだよな」
「実力主義と言えバカ」

まぁ、うん、どっちにしろ皆がやるのはいつも通りのプレーなわけで。
勝てればラッキー、でも負けるのは悔しいからとりあえず潰そうぜ っていう。
ラフプレーだって度を過ぎなけりゃ作戦の一種だ ってのが花宮の言い分。
私は別に否定する気は無いし、むしろ花宮のバスケは理屈的で合理的で賢いから好きだけど…
去年の木吉の件は、まぁ、やり過ぎ感が無くも無かったのかなぁ とは思ってたり。
相田ちゃんを通して情が移ったわけじゃないけどさ、ちょっとくらいは ね。

「で、なまえ。鳴成のデータは」
「はい」
「ん」
「は?もう出来てんのかよ、早くねぇ?」
「準備に取り掛かれって言われんのが早かったんだよね」
「花宮からか」
「うん」
「なんか、今回の試合やけに入れ込んでるように見えるよな、花宮」
「まぁ、全国に繋がるわけだし」
「そーゆーワケでもねえよ」
「じゃあ何だよ?」
「…私情だ」

私情って…
それ、単に勝ちたいだけじゃないの。
言ったら怒られそうだから言わないけどさ。

「は?それ勝ちたいってことじゃ」
「黙れ」
「ぐおっ!?ってぇな何すんだよ花宮!」

…いや、多分、これはザキが殴られても仕方が無いことだと思うよ。
なんで言うかな。
今私が飲み込めた言葉を。

「いいから黙って練習してろバァカ」

花宮はザキを殴ったことですっきりしたのか爽やかな顔で立ち上がり、一度伸びをして、またすぐにボールを持った。
全く、本当に素直じゃないよね花宮。
本当は誰よりバスケすんのが好きなんだから、この、捻くれ者め。


20140224



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