もんもんもん



二日間に渡る文化祭が今日終わった。
最後の一日は堺ちゃんと全力で楽しんで来た。
見て回るだけならすごく楽しい文化祭になったと思う。
その間、ザキと一哉に連れ回される時間なんかはあったけど、花宮とは一切喋ることは無かった。
だからどうという話でも無いんだけど。

ちなみにこの文化祭は土日で行われてたから明日と明後日は振替休日なんだけど、あり得ないことに、学校全体が二連休なんだよね。
後片付けなんかがされてないから体育館が使えなくって、部活の再開が三日後からになるかららしい。
でもまぁ毎日バスケやってるあいつらが、そんなん黙っていられるわけも無いっていうか。
遊びがてらバスケしに行こうかって一哉からメールが入ってた。
どーせ私記録係なんでしょ。
まあ行くけどさ。

「なまえ」
「ん?なに健ちゃん」
「毎日ありがたいんだけど、頼むからもう酢とみりんは間違えないでくれ」
「うん!それはほんっとごめん!」

そんで今は、健ちゃんの家で晩ご飯作って一緒に食べてきたところなんだけど…
ありえないことにニラ玉が酸っぱくなる出来事が起きちゃって、しかも作り慣れてる奴だもんで味見しなかったら、まぁあ悲惨なことになったよね。
文化祭後で疲れてんのに、昨日の残り物とふりかけご飯だけになっちゃった。
ごめんね健ちゃん。

「いや、まあ、なんだ…色々あると思うけど、考え過ぎんなよ。困ったら頼っていいから」

そう言ってまた癖のように頭を撫でてくる健ちゃんの手は、いつも通りだ。
もしかして、健ちゃんには全部バレてるのかな?
いやでも観客席からじゃ見えない筈だし…ううん、どうなんだろう。
まさかそんなはずは ってことを知ってたりするのが健ちゃんだし、謎だよね。

「うん、ありがとね」

健ちゃんの背中を見送って、家の中に入る。
寝起きぶりの自分の部屋と自分のベッドは、やっぱりどうしても落ち着いて、力が抜ける。
色々あったけど、まあとりあえず皆にお疲れ様って一言だけのメールは送ってはおいた。
皆楽しかったな とかゆっくり休めよ とか、そんな返事が返ってきたんだけど、花宮からは一分後くらいに転送で同じ文書が返って来た。
…これ好きなんだよね花宮。
ばーかばーか。
お疲れ様の一言くらい自分の手で打てっての。
無駄に転送とかいう手間かけて、あいつ実は結構バカなんじゃないの。

「まだ起きてるかなぁ…」

…電話 してみようかな?
倒れ込んで時計を見てみると、針は午後九時三十分を指している。
まだ十時前だし、電話してもおかしい時間ではないよね。

用事があるかって言われたらまぁ特に無いんだけど、なんていうかちょっとだけ確かめたいことも無くは無いし、転送メールに文句もつけたいし。
別に電話じゃなくても良いんだけど、メールでもLINEでも良いんだけど、やっぱり電話をかけるのが一番楽っていうか。
手間を考えた結果であって、話したいとかそういう感じのアレじゃないから。
断じて。
まあ一番の理由は昨日のアレ、あの…劇でのことなんだけど、それだけ聞くために電話っていうのも、なんだか嫌らしい奴だと思われそうで嫌だし。
そもそもアレは事故だったのかもしれないし?ああそうだ、アレは事故だったんだ!
それなら気にする必要は無いね!
いや待てよ、でも仮にもしそれがわざとやったことだったりしたら…
え?なに、どーなんの?
どーなっちゃうの。
そうなったら花宮は何をもって、わざとあんなことを…うわぁぁぁちょっと待って、これ考えたくない!頭痛い!
確かめて、一言文句を言ったら電話を切ろう!うん、そうしよう!!
と、意気込んで携帯を持った時のことだった。

――ピリリリリッ

「うわぁぁぁぁああっ!!?」

突然の着信音。
ディスプレイには『花宮真』の文字が。

――ピリリリリリッ

二度目のコール。
く、くそっ、手が 指が動かない!
ちょうどよかったじゃん、今まさに電話をかけようとしてた人からの着信、手間が省けて何よりじゃん私!
なんで出ないんだバカヤロー!
そうして数回のコールの後に、携帯電話は震えるのをやめて静かになった。
く、くそう…
やっちまった……
それじゃあとりあえず掛け直

――ピリリリリッ

「ひやぁぁぁぁああっ!!?」

や、ヤバイヤバイヤバイ。
二回目、二回目来た、どうしよういや出るんだよ私、とにかく早く出なきゃ次会った時にぶん殴られるよ。
出よう、出るんだ。

――ピリリリリッ…プッ…

…ごめんね花宮。
また切れちゃった。
この後、一刻も早くかけ直そうと何度か奮闘するも、私はおよそ十分もの間、携帯電話とにらめっこ状態にあった。
が、なんとかかんとか、発信に成功。
恐る恐る耳に当てて、数回のコールを聴く。

『お掛けになった電話は、現在、電波の届かないところにいるか、電源が入っていないため、かかりません。ピーッという発信音の後に、メッ』

あああもう!!
何、何なの!天は私の敵なの!?
こんにちの東京で電波入らないとかないでしょ、ねえ、それとも電源切ったわけ?ねえ?
そこまでするか花宮…
怒らせたんなら私が悪いんだけどさ。

「…はぁ」

もう、かけるのやめよっかな。
携帯を置いて、お風呂にでも入ろうかと立ち上がったその時、チカリとランプが光った。

――ピリリr

「もしもしっ!?」

反射的に出ちゃったけど、これ、私がめっちゃ電話したかったみたいになってない?
ちょっとやっちゃった感あるなぁ、なんて、まあ…何とかなる かな。



『もしもしっ!?』

今日三度目の電話をかけた時。
受話器越しのなまえの声は相当でかく、耳に 頭に響くものだった。

「声がでけーんだよバカ!」
『う』
「さっき掛け直して来ただろ。ちょうど電源落ちてたんだ、悪かったな」
『うん、別に大丈夫だけど、花宮の声もでかかったよ』
「うるせー」

なんだよ。
こいつ、意外と元気な声してやがんな。
もっと落ち込んでるとかそんなんかと思ってたのに、心配して損したぜ。
…まぁ、心配つっても、心配しなきゃいけなくなるような原因を作ったのは、俺なんだけどな。

『………』
「……………」
『…あ、あのさぁっ』
「あ?」
『あの…一個聞きたいんだけど…』

来たか。
いや正直謝ろうかと思ってたんだが、いざとなると中々言い出しづらかったし助かったけれども。
まさかこんなに早く来るとは流石に思っていなくて、少しビビった。

『昨日のって、えっと…』
「昨日?」
『昨日の、劇の、その…最後の……』
「ああ」
『あれって、事故?』

事故かよ。
そこは わざと?とか どういうつもり?とか、そう来るところじゃねーのかよ。
俺も人のことは言えねえけど、こいつもつくづくヘタレだな。
つーか、まず、怒れよ。
何テメェがビクビクしてんだよ。
俺を責めるところだろうが、今は。

『それとも…わざと?』

ああもう苛々する、一体なんなんだ、何を考えているんだコイツは。
全てを分かった上で、全てを悟った上で聞いているのだろうか。
それならば、これはどういう意味だ?
コイツは何を求めている?
俺の行動を責めもせず、こういった話の流れに持ち込むということは?

「お前の思ってる方でいい」

あわよくば。
お前が俺の気持ちに気が付いて。
あわよくば。
そんな俺をお前が少しでも気に掛けて。
あわよくば。
お前が俺を選びとってくれるのなら。

『…どーも、わざとっぽい』

俺は、期待をしてもいいのだろうか。


20140222



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