文化祭まで三日。
衣装も完成、大道具もほぼ完成。
舞台準備としては、背景の絵が一枚出来ればあとはOK。
それも全てが良い出来。
文句の付け所など存在しない。
しかし、それ意外に問題が一つ。

「っいや無理!」

なまえが、一向にキスに慣れないのだ。
毒リンゴを食らった白雪姫が死んでしまい、棺に納められ小人に運ばれる。
白馬に跨った隣国の王子がそれを偶然発見する。
あまりの美しさに息を飲んだ王子は、棺の中の白雪姫を抱き起こして、キスをする。
そうして王子様のキスで白雪姫は再び目覚め、二人は恋に落ち結婚する。
そんなラストシーン。
に、なる筈なのだが…
白雪姫 もとい なまえ。
こいつ、王子様 もとい 俺がキスする前に勝手に蘇生しやがる。
困ったもんだ。

「そんなタフな白雪姫には、私よりも別の殿方がお似合いなのでは?」
「やめてよ花宮…」
「あと三日しか無いんだよみょうじさん、分かってる?」
「…ごめんなさい」

謝るのはいいのだが、それなら一刻も早く慣れて欲しいというものだ。
実行委員 もとい監督も困りましたね なんて言って頭を抱えている。
正直なところ、キスの前に真っ赤になって目を泳がせているなまえは可愛らしいし、まあそれはそれで良いのだが。
俺が良くても、演劇的には良くない。
全く、こんなんで本番を迎えることは出来るのだろうか?
不安は尽きない。



文化祭の出し物、花宮は予想外なことに演劇に行ってしまった。
せっかく俺もザキも古橋も瀬戸も、みーんな舞踊に来たっていうのにね。
あいつだけ演劇かよ って。
ってことで、なんか悔しいから無理も承知で誘ってみたら、普通にOKされてちょっと戸惑ってる原ちゃんだよん。
はぁーあ。
なまえも演劇だし。
しかも白雪姫で主役張るんだってさ、王子様の花宮が指名したせいで。
楽しそーだよね。
主に本番の時のザキとかの反応が。
とか思ってたけど、なんかなまえがキスのフリに照れてるとかなんとかで、もう既に面白いことになってるみたい。
花宮は若干イライラしてたけど、いやぁ、周りから見てたらホント面白いって。

「よし、まあ大方完璧だな」
「そーだね」
「花宮がちょっとの練習で覚えたのが腹立たしいけどな」
「ちゃっかりセンターだしな」
「センター張れる奴は花宮以外にいないだろ、だって」
「まぁ分かるけど」
「お前ら、それ嫌みか」

時々舞踊の方の練習にも顔を出しに来るんだけど、その時々 で出し物完璧にしちゃうのが花宮って奴だよね。
嫌みってんなら花宮の存在そのものが嫌みだと思う。
ちなみに舞踊組の出し物は ほぼ部活別コンサート ってやつになった。
女子は少なめだからAKB、サッカー部は嵐、野球部は関ジャニ∞、その他はEXILEらしい。
で、俺らバスケ部はKAT-TUN。
順々に出て、最後のトリを飾るのは俺らみたい。
ああそうだ、プログラム冊子の紹介とか面白く出来上がってたよ、主にグループの名前が。
KRSとかKIRI-SAKIって感じになってて笑った。
衣装とかも頑張ってそれっぽいの揃えてみたりしてね、まあ、中々様になってるよ。
あ、ちなみに選曲も花宮がした。
振り付け指導も花宮。
あいつは一体何が出来ないんだろうね。

「じゃ、衣装もいい感じだったし、今日はこれでおしまいってことでー」
「そうだな」
「お疲れ」
「花宮はまだ残んなきゃいけないんだっけ?」
「…まあな、誰かさんのせいで」

呆れ顔なんてしてっけど、実際嬉しいんだろうな。
言ったら殺されそーだけど。

「あ、一回ホントにしてみりゃ慣れるんじゃね?」
「ああー…」
「…バカなのか原、なあ、バカなのか」
「古橋怖いってその顔!冗談だって、冗談。てか花宮もマジで考えんのやめてよ」

俺が提案したことで泣かれるとか堪んねーって。
花宮は普段冷静だけど、いざとなったらそーゆーのもアッサリやっちゃうから怖いんだよ。
軽々しく喋るもんじゃないな。
とは思うけど、まあやめらんないんだよね。
性分っていうか。

「じゃ、がんばってね花宮〜」

そう言えば一言、死ね とだけ返されるあたり、こいつやっぱなんやかんやで嬉しいんだろうなって。
ね、言ったでしょ。
もう面白いことんなってるってさ。
あとは本番を楽しみに待つだけ、かな。


20140221



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