霧崎第一高校文化祭



「じゃあ、満場一致で王子役は花宮君に決定ですね!おめでとう花宮君!」

いや、私、反対なんですけど?
それにおめでとうってアンタ、これってそんなにおめでたいことなのかな。
少なくとも、私にとってはむしろ逆を行くような気がしてならないんだけど。

「それじゃあ、花宮君!お相手の白雪姫を選んで下さい!」

誰だ?
王子に選ばれたイケメンは相手を選んでいい権利を得る とか言い出した奴は。
誰だ?
王子は中々決まらないだろうから推薦と多数決で決めましょう とか言い出した奴は。
誰だ?
王子は花宮君がいいと思います なんて言い出した奴は!!!
こいつのことだ…
言うことなんて大体わかってる。
そして、にっこりと笑った猫被り王子もとい花宮真は、数秒も迷うことなくこう言い切った。

「みょうじさんでお願いします」

やっぱり。
私の予想は嫌な方向に的中した。
いや、してしまった。
この間、私、あんたのファンやらに嫉妬を買ってボコられたばっかりなんですけど。
もう二度と無いとも言い切れないんですけど。
それどころかこれで拍車掛かる可能性すらあるんですけど、それは?ねえ?
花宮何考えてんの。
この場にだって、少なからずあんたのファンはいるんだよ。
それどころか純粋にあんたのこと好きな子だっているんだよ。
っていうか可愛い子がめっちゃコッチ睨んで来ててめちゃくちゃ怖いんだけど、ねえ。

「いいですねぇ、じゃあみょうじさん、白雪姫役、頑張って下さいよ!」
「いやちょっと待っ」
「頑張ろうね、みょうじさん」
「人の!話を!聞け!!!」
「あれ…みょうじさん、もしかして俺が相手じゃ嫌だった?」

嫌だよ。

「みょうじさん、嫌なんですか!?そんな勿体無い!それじゃ花宮君、無理強いするわけにも行かないし誰か他の子に…」
「じゃあ俺も王子やめます」
「えっ!?」

全体がざわめきだす。
くっそ。
そもそもは、私が演劇なんてものを選んだのが間違いだったんだ…
この学校の文化祭は変わっている。
売店や教室装飾などの自由出し物、垂れ幕といったクラスごとの出し物をするのは、当たり前だと思う。
が、それはクラスの約半数。
残りの半数は、演劇または舞踊という学年全体の出し物に参加しなくてはならないのだ。
学年全体で執り行うために、他のクラスとも親交が深まるから という理由でのことらしい。

それで私が選んでしまったのが演劇。
元々は裏方をやりたくて選んだというのに…
まさかそこに花宮がいて、その上まさかその相手にされそうになるだなんて、誰が考えただろう。
しかもこいつ、舞踊とも掛け持ちしてるんだよ?
その忙しい分際で主役張るの?
ふざけんな!
なんか部活別でグループ作って出し物するとか言って、健ちゃん達 もとい、いつもの四人に引き込まれてた。

「そんなぁあ!王子ですよ?花宮君がやらなくって誰がやるんですか!」

そうだよね。
王子な花宮君見たいよね。
みょうじさんがやれば花宮君の王子姿が見られるのに。
指名されたのにワザワザ断る?
って言うか指名した花宮君の立場とか考えてないのかな。
みょうじさんお願い空気読んで。
実行委員の懇願を聞き、周囲がざわめく。
ほんのりやわらか刺々しい言葉達が、ヒソヒソと小さな声で私を責め立てる。

「…いや、だって私なんかじゃ花宮と釣り合いが取れないっていうか」

当たり障りの無いようにやんわりと断りを入れるも、実行委員くんが立ち上がる。

「そんなことありません!花宮君は8組の学級委員長、対してみょうじさんは7組の委員長ですし!」
「そーゆー問題じゃなくて、こう、私より可愛い子は他にもいっぱい…」
「何も文句は無いですって!美男美女じゃあないですか!」

実行委員くんは、どんだけ花宮を王子にしたいんだい?
そのためならば私を執拗に持ち上げることも厭わない ってか、そういうことなのか、ねぇ。
花宮も何だか心無しか悲しそうな顔をしてこちらを見ているし。
くっそ。

「…わかりました、やります」

ので、許してください。
みんなして私を責めないでください。
プレッシャーで吐きそうです。
私の言葉に、花宮は胡散臭くニッコリと笑ってこう言った。

「頑張ろうねみょうじさん」

そうしてその場はみんなの拍手に包まれて、残りの役割はとんとん拍子で決まって行った。



ずっと書きたかったお話が遂に
20140220



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