負け惜しみ共



「なあ、ちょっといい?アンタ霧崎第一の女マネだろ」

一難去ってまた一難。
近頃の私は、本当、やたら無防備に絡まれすぎだと思う。

「なんですか」
「覚えてる?って、んなワケねーか…負かしたとこの奴のツラなんて」

覚えてるよ。
私が日頃どんな仕事してると思ってるんだ。
君らのことは散々観察済みだよ!
残念だったね!!
確か、今年初めの大会の一回戦であいつらが負かした学校のバスケ部の主力三人だったと思うけど…
エース君はいないみたいだね。
右からユニフォーム5番と10番と…あれ、もう一人なんだっけ?
まあそれはともかく、私はそれなりに覚えてても、あいつらが覚えてるかと言われればそうでもないかな。

「この前はよくやってくれたよな」
「…やったのはあいつらだよ」
「じゃあアンタから一つお礼でも言っといてくれよ、なぁ」

お礼ねえ。
花宮ほどじゃないけど、随分と嫌みくさいなあこの人たちは。

「てか、けっこー可愛くね?」
「そうだな」
「アンタ相当気に入られてるみたいだったし、何 か されちゃったら、あいつらはどんな顔すんだろうな」

まるで悪質なナンパのようだ。
というか、負け犬臭が凄いセリフを、こうもよくペラペラと口から出すもんだ。
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるレベル。
ていうか気に入られてるとかなんとか、勝手な解釈しないでよね。

「なあ、じゃあとりあえず、そこのカラオケにでも入ろうぜ」
「ヤダ」
「お前に断る権利はねーよ」
「い や だ」
「しつけえ女だな、あんまりうるせぇと、この後 痛いこと になんぞ」
「離して」

腰に手を回してくる5番くん。
くっそ気持ち悪い。
でも叫ぶわけにもいかないし、こんなとこで注目浴びたくないし、面倒ごとは起こしたくないし。
ああ、もう、こんなことなら、やっぱり先に駅行ってて なんて言わなきゃよかった。
みんなの言葉に甘えて、初めから着いてきてもらえばよかった。
最近の私はなんだか後悔してばかりだ。
と、カラオケ店に足を踏み入れた途端、身体が動かなくなる。
というか、何やら後ろに引かれるような感覚に襲われた。

「おーい、それうちの子だから返してくんない」

気の抜けた声と、背中に慣れた安心感。
私が知る限りそんな人はひとりだけ。

「ってめえ、瀬戸か!」
「おっと…いや、殴るのはよくないよ。なまえ、大丈夫?」
「あ、うん…ありがと健ちゃん」
「どういたしまして」

っていうか、うちの子って保護者じゃないんだからさ。
まあ、じゃあお前らは何なんだって聞かれたら 幼馴染 としか答えられないけどさ。
ちょっとばかり仲が良いだけのね。

「で?お前は何でこうも毎回毎回、簡単に絡まれるんだよバカ」

なんで戻ってきたのかは知らないけど、花宮やら康次郎やらまでやってくるし。
いやあ、そんなの知らないよ。
むしろ私が聞きたいよね。

「お前ら、俺らに礼を言いたかったんだろう。それなら、今聞いてやるよ」
「ぐっ…」
「チッ、ふざけてんなよ花宮ァ!」

花宮に殴りかかった10番君。
その手をがっしりと掴んだ康次郎は、手首を捻りあげて、10番君を地に伏せさせる。
なんだよ康次郎、あんた喧嘩慣れてるの と聞きたくなるような動きだった。
でもよかった、殴り返すようなことにならなくて。
WCに出られなくなったりしたら、みんな報われないもんね。

「はっ…二度とこんな真似してみろよ」

花宮は笑う。
私はそれを、健ちゃんの腕の中で眺めるしか出来なくて。

「次は無い とだけ言っておく」





夢主が霧崎に負けた相手校の選手に絡まれるところを霧崎が助ける的なもの というリク(りり様)
二個目消化です!
ネタ提供ありがとうございます!
20140220



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