面倒事



ところで、私は最近、なんだか妙な視線を感じている。
一概に妙とは言っても、それは明らかな嫌悪であったり、憎悪であったり、または嫉妬の視線であることを、私は知っている。
この前の体育の授業での一件以来、特に、あの例の女バスの二人とその他の女バスなんかからの視線が酷い。
大方、私が康次郎に保健室まで運ばれたのがきっかけだろうとは思う。
それまで溜まっていたフラストレーションが爆発したというか。
ただ単に、男バスレギュラーに近い位置にいる私が気にくわないというか。

「あっ、ごめぇーん」
「わざとじゃないの、許してね」

あからさまでは無いけれど、足を引っ掛けてみたりするくらいにして。

「ん、別に気にしてないよ」

そこからどんどんエスカレートしていき、死ねブス とか書かれたメモが机の中から出てきたり、体操着が無くなってみたり。
地味な嫌がらせがしばらく続いた。
けれど飽きればいつか終わることだと思っていたし、これが教師 ないし他のクラスメイトの目に触れるレベルにまで悪化すれば、誰かしらが何とかしてくれるとも思っていた。
なぜなら、私は別に集団全体に嫌われてこんな目に合っているのではないし、嫌がらせをしてくる子達は決まっていて、その子達に加勢する者も、特にこれといって無かったからだ。
けれど、そんな考えは甘かった。

「ねえみょうじさん、あなた、最近なんでこんな目に合ってるか分かってる?」
「うん」
「じゃあ、なんでやめないの、古橋君や花宮君に近付くこと。馬鹿じゃないの」
「…馬鹿かなぁ」
「大馬鹿よ!それにあんた、原君ともベタベタしてるじゃない!何なの!?」
「ちょっと、落ち着きなよ」
「だって、だってこいつ…っ」

私はついに、体育館裏に呼び出された。
これから部活あるのになぁ…
今日は外周りの日だから、ちょうど悪いことに、あいつら体育館にいないし。
またよくこの日を選んだね。
まぁ確信犯だよね。
というか一哉とベタベタって言われても、いや、ベタベタしたくてしてるんじゃないし、そう見えるとしたら、単にあいつのスキンシップが激しいだけだと思う。
そういやこの子、この前一哉に告ってた子だったっけ?
それならまあ、ムカつく気持ちも分からなくはないけど…

「ねえ、話聞いてんの!?」
「つっ」

いやちょっと待ってください、いくらなんでも女の子がグーはダメでしょ、グーは!
可愛くないよそれ…
ていうか結構痛いし。
口の中血出たし。
しかも追い打ちをかけるように、バケツに汲まれてあった水とかぶっかけられちゃって。
ああ、なーるほど、バケツがあるのは知ってたけど、やっぱりこうなっちゃうんだ。
あんたら知らないかもしれないけど、今季節は秋なんだよ?
夏はこの間終わったんだよ?ねえ。
確かに暑さこそ残ってるけど、そんでも、流石に水ぶっかけは無いよね。

「どう、少しは反省した?」

反省すべきはあんたらじゃ。
なんだいなんだい、男とちょっと仲が良けりゃあそれは全部恋愛沙汰になるの?
なこと言ったら私の男友達なんてあいつらくらいなわけで。
彼氏コロコロ取っ替え引っ替えして遊んでるあんたらのが、よっぽどなんじゃないの。
確かにまぁあいつらはかっこいいよ。
仲良くしてれば嫉妬を買うこともあるって分かるよ。
でも、私に言わせりゃ仲良くなりたいならまず話しかけて友達くらいにはなればって感じだし、遠くからファンやってますってだけの人に、ここまでされる意味はホントわかんない。
なんなの。
中継役でもやればいいの?
もう私にどうしろってさ。

「随分、楽しそうなことしてるね」

よく聞き覚えのある声に、女バスの子達の動きが止まる。
なんか、ううん。
私は何回こいつらに助けられれば気が済むんだろうね。

「は、花宮くん…ちがうの、これはっ」

近づいてくる人影は五つ。

「俺らも交ぜてよ」

日陰から見た、太陽に照らされた花宮は、とっても悪い顔をしていた。


20140219



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