179cmの彼と



「あ」
「あ…」
「おはよう花宮…って痛っ!?」
「おはよう」
「な、なにすんの…」
「デコピン」
「知ってるわ!」

すれ違いざまにデコピンとはなんて酷いことをするのですか って意味だったんだけど、伝わらなかったみたいだ。
まさか朝からおでこを痛めることになるとも思ってなかったよ。

「悔しいからデコピンさせて」
「嫌だけど」
「ちょっと屈んで」
「屈んでもらわなきゃ額にも触れない身長のくせに調子乗んなバァカ」
「花宮だってチビのくせに!」
「俺はチビじゃねーよ」
「健ちゃんより10cm以上チビじゃん」
「190cmと比べんな」
「180cm無いしチビだよ」
「お前色んな選手見過ぎて感覚狂ってきてんじゃねーの。忘れてんのかもしんねぇけど、179cmは平均より高いんだぜ」
「あと1cmの惜しさ」
「話聞いてんのか」
「聞いてない」
「死ね」
「ひっど!」

そんな下らないやり取りをしつつも、移動教室なので早々に別れる。
と、前を向いた瞬間のことだった。
何 か に足を引っ掛けて、地面に膝と手をつくことになったのだ。

「ったぁ…」

ふと上を見ると、ざまあみろ とでも言いたげな顔でクスクスと笑っている女子が二人。
ええっと、確かこの子らはこの前、体育の時に悪質なパスを出してたっけ。
が、私が気が付くと女バスの二人はさっさと歩き出してしまった。
教科書やら何やらも落ちたために、それなりに大きな音がたってしまうわけで。
気が付いた花宮がこちらに戻ってきた。

「何してんだお前は」

花宮は手を差し出し呆れたような声色で、大丈夫か と言った。

「…えへへ、転んじゃった。へーきだよ」

しかし私はその手は借りずに、素早く物を拾い上げて立ち上がった。
彼は何か嫌そうな顔をしたけれど、仕方ないじゃん?
私だって、取れるものなら取りたかったよ、手。
スカートの埃を払うと、花宮はまた私にデコピンしたかと思うと、バァカ とだけ言って去って行った。

「バカかなあ…」



花宮くれ というリク(59様)
話の流れになってしまって申し訳ありません、一応イチャイチャにはなったかと…
20140219



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