「花宮くん」
「なんだ」
「花宮くんは何で猫被ってるの」
「都合がいいからな」
「そっか、そうだよね!?確かに今みたいな明らかに性格悪そうな花宮くんだったら、話しに来た時点で私マネージャーの件は全力で断ってた!」
「今は?」
「へっ?」
「今時点でなんとなく俺を知って、どうだって聞いてんだよ」
「え?うーん…いいんじゃない?むしろよくやるなって関心しちゃうよ」
練習風景は、至って普通。
おそらくこいつが今まで見てきていたバスケと何ら変わりない、普通のバスケ。
ただ、出身中学とココの強さは桁違いだろうし、選手一人一人のレベルには驚くかもしれねえが。
俺が練習に戻ったところで、あいつは関心したように目を輝かせるだけだった。
「協調性無いよね、花宮くん」
「うるせーよ」
「っていうよりは、花宮くんに誰も着いていけてないみたい」
まずは、俺の目に狂いは無かったってことか。
健ちゃんともっと仲良くしたらいいよ なんて言ってるあたりこいつは解っているのだと思うが、まあ、そうするためには瀬戸のやる気と協力が必要だ。
こいつがこの部に入ることで、瀬戸が鈍る可能性も考えはしたが、まあその点は心配いらないだろう。
こいつが馴染みさえすれば問題は無い。
それと、さっきから俺がみょうじと話すたびに瀬戸が横目にこちらを見てきているが、やはり気にしているのだろう。
まあ昨日はあそこまで挑発じみたことをする必要は無かったが、ああいうイイコちゃんには少しキツく言っておかないとな。
「これは?」
「まずは見てみろ」
休憩時間、この前の試合の録画を見せてみる。
一応次期に主力になるであろう俺、康次郎、原、山崎、そして瀬戸の五人は出場した。
これでも充分わかるだろう。
ココのバスケがどんなものかが。
この時点で瀬戸はこちらを見ることをやめたが…いや、違うな、反応が怖くて見ることすら出来ないだけか。
録画を見て、みょうじはうわぁ とか ひー とかいう声を出していたが、依然として真剣に画面を見ていた。
「こんな酷いの初めて見た、けどみんな上手いんだねえ、バスケも、やり口も」
「えーなになに、みょうじってバカっぽいのに意外と解るヤツなんだね。さすが花宮が目つけただけあるー」
「バカっぽいとか酷いな、えっと…は、原?」
「はぁーい原だよん」
「覚えたよ。あっねえ健ちゃん、健ちゃんバスケしてんの、私久々に見たね!」
まあ、解るヤツではあるし、観察力も認めるが、どうやらこいつは天然らしかった。
純粋に思ったことを言っているのだろうが、いや、それとも今はわざと話しかけたのか?
どこまで本気なんだかよく分んねえ。
が…そんな振られ方しちゃ瀬戸は堪ったもんじゃないのは確かだろうな。
それにしても表情暗すぎだろ、とは思うが。
「健ちゃんはさぁ、花宮くん嫌い?」
「…まあ」
「私は嫌いだよ、花宮くん。だって猫被りだし明らかに性格歪んでそうだし」
「…そうだな」
「でも、花宮くんのバスケは好き。上手いっていうか綺麗っていうか…まあ確かにラフプレーなんて汚いし酷いとは思うけど」
「………」
「それでも、とことん考えてるっていうか…賢くって尊敬するよ。ぎじゅちゅもあって」
ここで、瀬戸はため息をついた。
「ああ、わかった。お前の考えはわかったけど、そこは噛むところじゃない」
「え?う、うーん…」
照れ笑いをするみょうじに、そして一言。
「いいんじゃない、やったら」
そうなるのは分かってたし なんて言う瀬戸は、どこか諦めたような、吹っ切ったような顔をしていた。
いや、違うか。
認めざるを得なくなっただけか。
みょうじは、瀬戸の言葉に目を輝かせて頷いた。
「うんっ!」
ああ、これで思い通りか。
それにしても、別に瀬戸が反対したわけでもないっていうのに、こいつはなぜこうも、瀬戸の許可を得ようとしたのか。
そこだけはわからないな。
「それじゃあ、これからバスケ部マネージャーとして、よろしく」
「うん!花宮くんよろしくね!」
「バカ、俺だけじゃねーよ」
そう言うと、みょうじは気が付いたのかはっとして、部員の方に向き直った。
「みなさん、よろしくお願いします!」
「懐かしいねー、あれからもう一年以上とか…あの頃の私はまだ丁寧で親切な良いマネージャーだった」
「今も良いマネージャーだよ」
「敬語だったじゃん」
「いや、そうでもなかったよね。それに敬語とか花宮くん って呼び方とかも、結局続かなかったし」
「…だって、みんな言うこと聞かないから」
「ブチ切れてたからね」
「あれは仕方ないよ!」
「全く、すぐに誰が一番偉いんだか分かんなくなったよな」
「うっ」
「花宮が読み違えたのはそこだけじゃないか」
「まあ、なまえが変な方向にグレたり歪んだりしなくてよかったよ、俺は」
「えー…」
「ほんとに」
ほぼ幼馴染セコムのお話
20140219