「バスケ部ねえ…」
「え?なまえちゃんバスケできるの?」
「堺ちゃん。あ、いや、私がやるわけじゃ無いんだけど…ちょっと、男バス関係でね」
「男バス?ふーん、よくわかんないけど大変そうだねー」

六時限目が終わり、帰りのHRも終わり。
ついに花宮に言われた 放課後 がやってきてしまった。

「んー、まあとりあえず行ってくるね」

声をかけてきた堺ちゃんに別れを告げて、目指すのは第二体育館。
今日はちょうど中練習らしいから、まあ早い話彼らがバスケをしているのを見られる日だ。
それよりこの学校広すぎんよ。
今まで何回迷ったかわかんないもん。
特に体育館とか一人で行くことなんて無いし、行くとしたら集団だし、何と無く人の波に乗って辿り着いてたから、ホント。
せめて周り見ながら歩いてたら道くらい覚えてたんだろうけど…
うん、ぶっちゃけ場所知らない。
しかも第二体育館とか、いつもは第一体育館だから行ったことすらないし。
こっちかな、あれ?違うなこっち?

そういや今日の朝は健ちゃんなんか変だったなぁ…あっそうか、花宮くんが勧誘(?)に来るっぽいこと知ってたのかな。
まだ秘密にしなきゃいけなかったから態度が変だったとかかな?
まあいいけど。
一応、知らなかったらいきなり行ってびっくりさせるのもアレだしメールだけ入れとこうっと。

「さて、と」

で?ここはどこだ。
とりあえず一階なのは間違い無いけど、目の前にはさっき降りてきた階段ですよ。
ああーもう!
わかんないから一回リセットしよう。
四階、四階に戻ろう!
ちくしょう…無駄な体力使ってるなぁ。
一年の教室は四階とか、ほんと頭トチ狂ってるとしか思えないわ。
帰宅部の体力舐めんな。
よっしここは1組から4組のスペースだな、じゃあ向こうに行けば私の教室が…

「うおっ」

え、魚?
振り返るとそこには、やったらデカイ茶髪の男子。

「みょうじじゃねえか、何やってんだよこんなとこで」

えっと、あー…
山崎、くん?だっけ?
入学式の日に転んでるの見られて、んで落し物とか届けてくれた人だ。
メアドだけ交換したわりに顔とかあんま合わせないからパッと名前が出てこないけど、山崎くんで合ってる、はず。

「山崎くんに会いに来たんだよ」
「は、はぁあっ!?」
「冗談だよ。いやぁ、第二体育館に行きたいんだけど迷っちゃって」
「…あのな、体育館は四階にはねぇよ?」

呆れ顔でそう言う山崎くん。
いや、分かってるよそんなことは!
これまでの経緯を説明すると、山崎くんは頷いて何やら、あー とか うーん とか言い始める。
何かを躊躇ってるみたいだ。
すると、4組の教室からひょっこり出てきた派手な頭した男子が、こっちに気が付いて近寄ってきた。

「あれ、ザキ何やってんの?誰その子、ナンパしてんの?」
「ばっ、ち、ちげぇよ!ほら、昨日言ってたみょうじだっつーの!!これから見学に来るんだと」
「えっ、マジ?あんたみょうじさん?」

ていうか、え?
昨日言ってたみょうじ って。
見学に来る って。
もしや、山崎くんはバスケ部だったのか。

「へえ〜…あんたがマネージャーやってくれんなら、まあイイかもね。かわいーし」
「はっ?」

いきなり何言ってんだこの男子。
てあ頭ぽんぽん叩くの何なのそれ、私の頭叩いていいのは健ちゃんだけなんだけど。
ちょっと気分も悪くなるくらいにして、その男子は あっ と何かに気が付いたような声をあげた。

「てか、体育館行くんだよね?ついでだし一緒に行こーよ」
「お断りしま…いや、やっぱお願いします」
「なになに、素直だね」
「…まあ、迷って四階まで来たくらいだしな」
「ちょっ、それ言わないでよ!」
「マジー?なんだよ、じゃあ早く行こー」

そんなわけで、私はデカイ男子二人に挟まれて、第二体育館に半ば拉致られることになったのだった。



「健ちゃぁぁぁん!!」
「えっなまえ、ちょ、うわっ」
「会いたかった!ほんと会いたかったぁぁ!!」

昨日のことがあってから、なんだか悶々としたまま朝を迎えて、そのまま時間は放課後になった。
ジャージに着替え終え、体育館に着いてからそう時間も経っていない頃。
山崎と原に連れられて来たなまえが、俺を見るなり飛びついてきた。
いや、この時が来るのは覚悟していたけれど、まさか昨日の今日で見学に来るなんて…
花宮の行動力は一体なんなんだ。

「とりあえず落ち着いて、で離して」
「ヤダ」
「嫌じゃなくて」
「…高校入ってから、朝しか会えないから寂しいんだもん」

にしても学校でこんなことをしては、明日から何を言われるか分かったものではない。
半ば無理矢理離して座らせると、しょぼくれたような顔をする。
言ってしまうと、俺はこの顔に弱い。
いつもつい甘やかしてしまう。
それを知ってか知らずか、我儘を通したい時はこれをやってくるのだから、俺の幼馴染はつくづくあざとい奴だ。

「え、なになに瀬戸、なんでそんな羨ましいことになってんの」

ほら食いついてくる奴がいた。
中学の時もそうだ。
そうからかわれるのが分かっていたから、初めからなまえとは学校で話さないようにしていた。
もちろんなまえはそれを不思議がったし、嫌がった、が…結局は俺が折れた。
言っただろ。
俺はなまえのあの顔に弱いんだ。

「やっと来たかよ」

すると、後ろから聞こえる、よく通る声。
それに気が付いたなまえは、俺の肩越しにそいつの名を呼んだ。

「あ、花宮くん」
「来なかったら呼びに行こうと思ってたんだが、よかったよ、余計な手間が増えなくて」
「うわあ…そんなあからさまにやめてよ。私、花宮くんの呼び付けシカトするほどバカじゃないよ」
「ふはっ!分かってるならいい」

そうして姿を眩ました花宮。
俺の耳元でぼそりと、やっぱり花宮くんて猫被りだったんだね なんて呟いたなまえは、やっぱりこの部に向いているのかもしれない。
何がって…それに幻滅するどころか、あははと笑っているあたりが。
あまりそんな風に考えたくはないが。
まあなるようになるか、と。
俺はもう、ため息をつくしかなかった。



2でゲス宮くんを書いた途端、喜びと達成感から失速。
20140219



前へ 次へ