「やあ」

みょうじなまえ。
私立霧崎第一高校1年7組。
入試の成績は、俺に次いで、2位。
俺は当たり前に満点を取っての入学だったが、みょうじの得点は確か、5教科480点だったか。
どうやって手に入れたのか知らないが、中学時のクラス担任によると ではあるが、それはどうにも正確な情報らしかった。
勿論推薦を受けることも出来たし、暇潰しに受けた入試ではあったが、こんなに僅差で2位を取られるだなんて、なかなか面白味のある結果になった と興味を持ったものだ。

入学後すぐの学力テストでは、みょうじは15位程度の成績だった。
何がどうなって入試2位という功績を残したのか知らないが、まあ、この学校はスポーツもとい学業推薦で入って来た奴らも多い訳で。
別に不思議な話でも無いかと、別段気にもしなかった。
何と無く話題に上ることがあったりして、どうやらクラスメイトでありチームメイトでもある瀬戸の幼馴染であり、相当仲が良いことなんかの情報は耳に入ってはきた。
それと、中学時代は彼のチームでマネージャーをしていたと。
興味本位から声をかけて話してみたりもしたが、こいつの無意識下の視線、話の切り返し、どれを取っても、俺の求めるものに近いことが分かるだけだった。

「…えっと」
「みょうじさん」
「そーゆーあなたは有名人の花宮くん!久しぶり」
「はは、やめてよ。ねえ、少しだけ話したいんだけど、いいかな」
「えー…」

そうしてある日突然、俺の中での 理想形 に、みょうじがぴったりと嵌ってしまう事象が起きた。
美術室の教卓に集められた、静物模写の画用紙の束。
その一番上には、一言で言うならば うまい 絵があった。
模写とは言っても、所詮は授業のもの。
特に描き込んでいるわけでもない。
しかし、これ程までに…
見て一目で それだ と理解出来る程までに、真似て描くことが、こんな歳頃の女に出来るものかというのが、正直な感想だった。
へえ、なるほど。
イイな面白い。
模写が速く上手い というのは、すなわち観察力に長けているという訳で。
これでファイナルアンサーだ。

「頼み事があるんだ」

俺の求めているもの。
それは賢くて効率が良く、観察力に長けた、更にそれでいて俺に楯突く性の悪さを持たない、そんな都合の良い手駒。
一言に言えば、仕事の出来るマネージャー。
しかしそんなもの、簡単に手に入るわけもないと分かっていた。
もしいたとしても、そいつの能力が俺より上でなければ、いる意味は無いし、必要性なんて皆無だ。
だが、いた。
ここにあった。

「男子バスケ部のマネージャーになってみない?」



今や学校一の有名人と言っても良い程の男、花宮真。
何を考えているのか知らないけれど、彼はある時私に、男子バスケ部のマネージャーをやらないか と声をかけてきた。
男バスと言えば幼馴染の瀬戸健太郎、もとい健ちゃんが入部した筈だけど。
マネージャーの募集なんてかかっていようものなら、そりゃ健ちゃん心配だし、元から一緒に入部してたよ。
でも、そんな話聞かなかったから…
まさか何か裏があるのかな、とか考えてみたり。

「嫌だな、別に何も騙そうだなんて思ってないし、企んでもいないよ。だからそんな訝しげな顔しないでよ、ね」

ああ、この人すっごいな。
さすが入試トップ。
学力もぶっちぎりのトップだけあって、相当頭いいんだろうな。
…まあ、入試で言ったらかく言う私も2位ではあったのだけれど、あれは先に推薦入学が決まっていた健ちゃんと同じ学校に入るために、死に物狂いだったと言うか。
確かに私は顔に出やすいタイプかもしれないけど、あえてそう言うことで得られる返事もあると言うか。
早出しで会話の主導権利を奪われた。
良く言えば誘導、悪く言えば貶められるパターンに嵌められた。
人並みな空気が読めるからこそ分かってしまうこともあるっていうか、頭の良い健ちゃんで鍛えられたっていうか、ね。
この人ずっるいなぁ。

「それで、ねえ、どう?」

私、頷くしか選択肢残ってないじゃん。
そして彼は口元に笑顔を浮かべて頷くと、ひとまずは放課後バスケ部に来てみてよ と言葉を残して、去って行った。


20140218



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