最近の悩み



最近、ある問題が発生している。

「やっぱりみょうじさん、イイよな」
「ああ、マジ、可愛い」
「マネージャーの仕事してる時も凛々しい感じでイイけど、何より普段がたまんねーよなぁ」
「廊下ですれ違った時とか笑顔だし」
「合宿ん時の飯も美味いし」
「試合ん時も差し入れくれるし」
「部活始まる前までは天然すげーし」
「ほんっと」
「癒しだよなぁ〜」

部員の中に、なまえを気に入る者が出てきたのだ。
以前からいなかったわけではないが、こんなに多かったかと言われれば、それもまた違うと思う。
最近。
そう、最近になってからだ、こんなのは。
何より証拠として、なまえを気にかける部員が「最近可愛くなった」と言っているのだから、間違いない。
こういうのが耳に入るたび康次郎や弘がはっとしているが、まあ別に、ある特定の人物に特別好かれているというわけでもないし、そんなに反応することではないと思う。
まあ、俺自身も、気に食わないといえば気に食わないのは確かなのだが。

「おい」
「ひっ」
「うわ、は、花宮先輩…」
「ぐちゃぐちゃ喋ってんなよ一年。一軍に入れたからって調子に乗ってサボれば、すぐ二軍に落ちることになるぜ」
「は、はいっ!」
「すみませんでした!」

少しばかり制裁が必要かと思い捻ってやれば、謝り出す。
ふん、謝るくらいなら最初からやるんじゃねえよバァカ。

「コラッ!」
「っつ」
「花宮、何一年生いじめてんの!?」

すると突然襲ってきた後頭部の軽い痛みに振り向くと、名前がバインダーを手に、俺を見上げて口を尖らせていた。
くそ、それで殴りやがったのか。
なんて女だ。

「いじめてねーよ」
「だめでしょ、優しくしなきゃ。いくら花宮がバスケ上手くてカリスマがあってイケメンだったとしても、それじゃ誰も着いてきてくんなくなるよ!」

いやなんだよそれ。
本人は厳しく叱ってるつもりらしいが、その内容は褒めてばっかりだ。
むしろこういう作戦なんじゃないかとさえ思わされる。

「花宮!人の話聞いてんの?」
「ああ、聞いてる聞いてる」
「…絶対聞いてないでしょ」

そう言って上目遣いに睨んでくる姿は、まるで小型犬が無理して威嚇してるようにも見えてくる。
全くもって怖くない。

「悪かったよ」

まああんまり舐めてても拗ねるだろうから謝っておくが、こんなこと、他の奴にも同じようにしたならば、放ってはおけない。

「もー、謝る気もないでしょ。嫌われたって知らないからね」
「はあ?知るかよ。別にお前に嫌われなきゃどうでもいい」
「…花宮、熱でもあんの」
「ねーよ」

一年共、見ろ。
いや、やっぱり見るんじゃない。
けどこの事象の存在を覚えてはおけ!
これが、なまえの、俺に対する態度だ。
俺にしかしない表情だ。
だから、お前らの見ているいつものなまえはありふれたなまえであって、特別なものじゃない。
そのくせに調子に乗ってなまえをわかった風にして笑って評価していやがるのが、非常に非常に腹立たしいんだよ、俺は。

「…あんまバカなこと言わないでよね」

こんなこと、絶対に当の本人には伝えられないけどな。
しかしいずれは、だなんて考えたりもしていて。
ただ、今はまだその時ではないんだ。

「バカはお前だろ、バァカ」


ヒント、恋をするとどうやら女の子は可愛らしくなるそうです。
20140218



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