通知表



「通知表チェック」
「はい」
「そこ、順番に並べ」

花宮によって一例に並べられる私たちは、ただの彼の同級生、の、はずなんだけど。
やっぱり監督様は偉いもんで。
なんだか恒例行事になった、この、通知表チェックというイベント。
今回は二年前期分の成績だ。
自分が部長と監督を務めているこの部が、バスケをしているから頭が悪い と言われるのが嫌だという理由かららしい。
なんとプライドの高い。
そこで発覚した苦手教科を克服させられたりと、まあ、この後は皆にとって嫌なことしか起きないのは確実だ。

「次、一哉」
「んー」
「平均は3.2か。お前、5は体育だけかよ?現代文と古典が一番悪いな…分からなかったら聞きに来い、教えるから勉強しろ」
「気が向いたらねん」
「ざけんな。次、弘」
「…オラ」
「平均3.7。お前ら揃いも揃って5は体育だけか、お前は数IIB、いや、理数全般か」
「生物はいいだろ!」
「でも3だろ。もう少し頑張れ」
「無理だ」
「教えるから。次、健太郎…は、別にいいか」
「4.9だよ」
「何落としたんだ」
「芸術の提出全くしてなかった」
「なるほどな。次、康次郎」
「これだ」
「平均4.2…まあまあだな」
「ああ、でも歴史が苦手で」
「お前暗記苦手だったか?」
「いや、歴史はつい偉人に面白いラクガキをしてしまうから、身が入らないんだ」
「アホか」
「自分でもそう思う」

レギュラー陣が終わったら、次はマネージャーに回ってくる。
もう一人の子とドキドキしていたけれど、よかった、こいつ私よりバカだった。
相対的に評価甘くなったりは…

「次、なまえ」
「はいっ」
「平均は…4.5か」
「…うん」
「ふーん、すげーじゃん、頑張ったな」

した!したよ!
評価甘くなった!!
いや、単純に褒められただけかな、これ。
ヤバイ、花宮に褒められるとか中々無いよ、しかも成績で。
健ちゃんでさえ褒められないよ。
成績良いのが当たり前だから、褒めるとか貶すとかの問題じゃないみたいだし。
うわぁぁそれよりどうしよ。
ホントに嬉しいよコレ。

「じゃあ、後期はもっと頑張ればいいな。部活でのお仕事、もっと増やそうか」
「…はっ?」
「そうだな、手始めにまずはIHの録画から各校の選手の近頃の癖、スペックを纏めて貰う」
「え…え?えっ?」
「ほら、これ家に持ち帰って良いから」

ああ、あと選手の状態も見ておけよ、ついでに動きのパターンも纏めとけ。
なーんて言ってくる花宮。
…いやぁ、うん…
やっぱり嬉しくない。
全然全くまんじりとも、嬉しくなかった。
私の盛大な勘違いだった。
手にはドッサリ大量のDVD。
マジかよ。
並んだままの他の人たちが同情の眼差しを送ってきているけれど、いや、うん、そんなんなら助けてくれ。

「い、いや…」
「じゃあ頼んだぜ、監督助手」
「いやあの」
「ああ、本業はマネージャーだったか、まあ別に大丈夫だろ、今まで出来てたことが出来ないだとか言い出すんだったら」
「いや聞け!聞いて花宮!」
「なんだよ」
「前から思ってたけど、この作業って別に花宮がやればよくない?もしくは他の選手の方がバスケに関する勘とか…」
「勘なんて不確かなモン頼りにするかよ」
「いやでも」

ひっどいものだ。
若干イラッとさえしてくる。
なんなんだ。
どんだけ仕事増やす気だ、え?おい。
一回どついてやろうかと思うと、花宮監督様が予想外なことを口走る。

「俺はお前の観察力を買って言ってんだ。代わりはいねえ。いいから、黙って俺の支持に従ってればいいんだよ、バァカ」

そしてその場が静まり返る。
花宮が…花宮が、こんなに人を褒める日が来るだなんて。
と、いう驚愕からだろうか。

「おい、返事は」

どうせ私の集めた情報駆使して、11月頃のWC予選でもきったないプレーするんだろうなー。
とか、分かってるんだけど。

「はい、りょーかい」

頼られると弱いんだよなぁ。
仮にも大好きなみんなの役に立てているんだったら、それでもいいか。
なーんて。
私もクズなんだなぁとか思ってみたりする、二年の夏の終わりでした。



前期、終了。
20140215



前へ 次へ