たまの練習試合に向かう



霧崎第一高等学校。
東京都に位置する進学校だ。
まあ進学校とは言っても、スポーツ推薦で入ってくるおバカもいるわけで、皆が皆賢いとも言えないのだが。
そのうえ、全学年毎8組あるうちの3組は商業科、4組が普通科で、残り1組が特進科であるのだが、偏差値は平均して55程度。
特進科の偏差値は60で進学率は高いものの、進学校、と一括りに呼ぶには、些か疑問を覚える点もある。
話を戻すが、この霧崎第一高校は、学業へはもちろん部活動にも力を入れていて、中でもバスケットボール部とゴルフ部は、都内でも有数の強豪とされている。
特に男子バスケ部に関しては都内ベスト8入りを果たすなど、華々しい功績を残してきている。

「なまえ、相手のデータ確認」
「はぁーい。まず今日の練習試合の相手は千葉県立商業高等学校の皆さんです。主将は3年の中田浩輔、背番号は4、ポジションはPG。ここのPF、竜崎洋大が中々厄介です。2年、背番号は7。身長198cm体重86kgと結構な高さがあります。これまでの試合によると彼は…」

そしてこの霧崎第一高等学校に通う何気に女子みょうじなまえは、その輝かしい男子バスケットボール部のマネージャーを勤めていた。
言っても、桐皇のマネージャー桃井ほどではないとはいえ、彼女自身の仕事内容を踏まえれば、マネージャーというよりは、主将のサポート役という言葉の方がしっくりくるのだが…
それはさておき、今日は練習試合。
今現在千葉県へ向かう車内では、ミーティングが行われていた。

「 ――以上です」
「これらの情報を踏まえて、だが…」

主将兼監督を務める花宮真による作戦。
公式試合ではないとは言え負けは頂けない、というよりも、たかだか練習試合で負けるようでは、霧崎第一の名折れである。
メンバーの中に学校を背負うつもりの者など誰一人として存在しないが、全員、負けというものに苛つくという点を考えると、勝つしかないのである。
最も、それほど苦戦する事態が訪れるのかどうか、という話だが。

「相変わらず、花宮となまえが組むと怖いな」
「いやお前の生気の無い目も中々こえーよ」
「それもそうだけどさぁ、やっぱ仕事だけは真面目だなー、なまえって」
「こらそこ、原、聞こえてるから」
「ジョーダンだって。ま、要するにいつもどーりやればいんだろ」
「ふはっ、まあ、それもそうだな。愉 し く プレーしてればいんだよ」

全員が納得したように頷き、ミーティングは一先ず終了。
バスケットのルールも知らないような形だけの顧問は、前方座席でおとなしく座っている。
自分の受け持つ生徒達が、どんなことをしているのかも知らずに、呑気なものである。
見兼ねたなまえは毎度メンバーに忠告するが、あまり聞いては貰えない。

「はぁぁもう、ラフプレーも程々にしてよ?私は何っっっにもしてないのに、結構他のとこから睨まれるんだから!」

たぶん、言い方に問題があるのだが。
これではまるで相手のことよりも自分のことを優先しているように聞こえてしまうからである。
まあそれが事実なので、庇いようも無いのだが。
要するに、類は友を呼ぶ ということだ。

「逆恨みされて私が拉致られたらどーすんのさ、もう!」
「逆恨みっつーか普通に恨みだろ」
「私は無関係だもん、逆恨みでしょ。とばっちりとも言うけど」
「いやもーお前も関係者みたいなもんだって、諦めろ」
「いーやーだ!」

このようなやり取りも、この一年と少しの間で慣れたものである。

「あああうるせー!!」
「ザキの方がうるせーし」
「ぐぉぉぉぉぉ…」
「おい瀬戸、起きろ、着くぞ」
「ん〜…んがっ」

そろそろ目的地。
次々にバスを降りる準備をし始める面々。
今日も、ゲス共は全力でバスケットをする。

20140116



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