四泊五日の海合宿にて



「十分休憩!」

夏休み、四泊五日の海合宿。

「うーす」
「しんどー」
「…暑い」
「眠」
「お前らだらけ過ぎだ。おいなまえ、ドリンク!」
「はぁーい」
「おせぇ」
「はいはい」

さすがお坊ちゃん校と呼ばれてるだけあって、この学校、部活にかける金は中々のもので。
この合宿は、何一つ不自由なく淡々と進でいた。
特にこのバスケ部は強いし、マネーの方は沢山出してもらえてるんだろうね。
というわけで、やってきたのはとある田舎。
なぜ田舎なのかって?
そりゃあ決まってる。
花宮が田舎にしようって言い出したから。
この部内では、奴の言うことが正義であり絶対なのだ。
それで決まったのが、この海沿いの田舎。
今はちょうど砂浜を走り終えたところってわけなんだけど、うん、マジであんたら爽やかな浜辺とか似合わないね。
言ったら殺されそうだけど。

「ほい、タオル」

それぞれにタオルを渡して歩く。
いやぁ、当たり前だけど汗まみれだねえ皆…潮風も浴びてるし、こりゃ帰ったら即刻お風呂だね。
いいねえ羨ましいね、皆お風呂入ってる間、私は多分食事の準備だね。
あーくそ。
花宮はマジで私のことなんだと思ってんの?
ホントに予算内でご飯付きのとこ泊まれないの?っていやんなわけないじゃん、アホでしょ。

「サンキューなまえ」
「ありがとう」
「あ、花宮もお疲れさま」
「ああ」

最後は花宮だったため全てを渡し終えると、花宮はすぐに後ろを向いて腰を降ろすために敷いていたレジャーシートの元へ向かう。
あー、やっぱ意外と汗似合うんだよね。
外で走るからか髪も邪魔なとこ縛ってるし、なんかかわいいな、なーんて。
うはあ、これ花宮が読心術できる人だったら終わってんなぁ…
とか、今まさに考えた時、何やら邪険な顔をした彼が振り返った。

「なんだよ」

するとこの一言。

「へ?」
「今見てたろ」

え、うそでしょ。

「…見てた?」
「見てた」
「見てたな」
「がっつり見てた」

恐る恐る尋ねると、頷きながら答える面々。
振り向かれるほどガン見してるつもりもなかったんだけど、いや、マジでか。
冗談抜きに読心術とかできるんじゃないの、なんて言ってやりたかったけど、残念ながらそれは私が墓穴を掘るだけで。

「で、なんなんだよ」

詰め寄ってくる花宮。
いやその、あんまり近寄んないで欲しいっていうかなんて言うか。

「な、なんでもない!」

耐えきれず、私はにじり寄る花宮から逃げることを決意し後ろに勢いづけて身体を引いた。
しかしまぁ私もつくづく運がなくて。

「っちょ、待てよおい、こら、バカ!」

花宮が叫んだ瞬間。
彼に右手首を掴まれたまではいいが、残念、ここは砂の上。
彼も同時に体制を崩したが最後、盛大に私の上に倒れこんで来る。
お尻、背中、頭、そして顔と順々に水に埋まって行く。
カラカラの太陽に晒されていたから、有る意味ではこの冷たさもちょうどよかったのかな、なんて言うわけが無い。バカじゃないの。
いち早く身体を起こした花宮が、掴んだままの私の手首を引いて起こしてくれる。

「っぷぁ!」

苦しかった。
人生で溺れることなんて絶対に無いと思っていたけど、こんな風に突然倒れこめば、溺れることもまた、あり得るかもしれない。
たとえそれが、こんな浅瀬でもね。

「…おい」
「…ごめんなさい」
「バカか、バカなのかお前は、あ?」
「痛い痛い痛い許して痛いです」
「許さねーよ」
「っおい!大丈夫かなまえ、花宮!」

康次郎が駆けつけてきて、なんとか元の場所に戻る。
すると、何やら花宮が肩から少し大きめのスポーツタオルをかけてきて、胸の位置まで巻いたかと思うと、私にそこで固定させた。
え、なに、親切だね。
でもこれ花宮のタオルじゃ、なんて思っていると、デコピンされてしまった。
痛い。

「ちょ、なにさ花宮、さっきのは謝っ」
「それじゃねーよ。いいから黙れ」
「ひど」

ちょうど戻る時間だったしいいか、早く戻るぞ、なんて花宮が皆に声をかけると、帰る準備をしだす面々。
仕方がないので、私も準備をしよう。

「…ねー花宮」
「あ?」
「ほんとごめんね、ありがと」
「…気にしてんじゃねーよ、バァカ」

そう言って、さっきよりも少しだけ優しいデコピンを食らうと、先に歩き始めてしまう。
ああもう、これだからあいつは反則なんだと、今日、改めて感じましたとさ。


20140215



前へ 次へ