寝顔鑑賞



「あ」
「………」
「…まじでかぁ」

健ちゃんに借りていた辞書を返しにきて、教室を出ようかという時、ふと何気なく花宮を見ると、机に伏して寝ているのが見えた。
見つけてしまった。
好奇心というか興味本位というか、つい、近付いてしまったのが、私の運の尽きというところだろう。
前の席は健ちゃんなので、膝を借りて、寝顔をじーっと観察してみることにした。
健ちゃんは椅子にされていても全然気にしてないみたい。
ラッキー。
いやまあ、慣れたのかな。
よく座椅子にするし。

「…おおー…」

まつげ長いなぁ、花宮。
めっちゃ鼻筋通ってるし。
羨ましすぎ。
あ、ちょっとまってヒゲ、ヒゲの剃り残し発見しちゃったんだけど。
あの身だしなみには気を使うはずの花宮が、まさかの剃り残しだなんて。
なにこれ無防備、可愛い。
じっと観察していると、健ちゃんがそれ楽しいの なんて言ってきたけれど、いやまぁ、うん…楽しいよ。
花宮の寝顔とか滅多に見ないし。
何か言いたげだったけど目が合うと、まあいいか と頬を掻いていた。
変な健ちゃん。

「ていうか、髪さらっさらだね花宮」

めちゃくちゃ羨ましい、ツヤツヤだし。
髪は烏の濡れ羽色 なんて言い回しがあるけど、この言葉はまさに花宮のためにあるようなものだね。
ってくらい、髪きれい。ヤバイ。
何より一本一本が細いし。
…そのうちハゲないかな、これ。
そして、つい、出来心で、髪に触れようとすると、私の手はがっしり掴まれてしまった。

「へっ?」

健ちゃんはというと、ほら見ろ と呟いて私の背中をぽんぽんしていた。
それはなんだ、御愁傷様 ってことか。

「…誰がいつ寝てるだなんて言ったんだよ、バァカ」

うわぁ。
起きてたなら言ってよ、なんて言葉、意地の悪い花宮に通じるわけもないか。

「いやぁ、えへへ、なんか恥ずかしいね」
「恥ずかしいのはお前の頭だけだ」
「なんだとうっ!?」

そうして私たちのやり取りをすべて横で見ている健ちゃんは、またも呟いた。

「お前らを見てる俺が一番恥ずかしいよ」

それ、どういう意味。


20140216



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