秀徳高校のいいコンビと



「うわ」
「おっ」
「…かずなりだぁ」

高尾和成。
私ことみょうじなまえの、お母さんのお母さんの妹の娘の息子、つまりハトコ、マタイトコ。
住所も確かに近いし、学校もまあ都全体で見たらまぁまぁ近いんだけども。
まさか学校帰りに鉢合わせるだなんて。

「なまえじゃん!」
「バッカなまえ様って呼べっつったろ年下のくせに!年上を敬えバカズナリ!」
「んだよそれー」

血の繋がり的にはだいぶ薄いけど、一応親戚であり、年も一つしか違わず同じく都内の高校に通っているので、結構仲は良い方…だとは思うかな。
多分ね。
わりと頻繁にどうでもいいメール来るし。
プリンパフェなーう!とか。
知らねーよ食わせろ!ってね。

「てか何それ、なんで自転車でリアカー引いてんの?ウケる。乗りたい」
「乗る?」
「乗る」
「いーぜ、今ここに乗せてた奴買い物なうだから。暇だし?乗れよ」
「わーい、私も今一緒にいた奴らとはぐれて暇ー」
「それ暇じゃなくね!?探せよ、っつかケータイは?」
「罰ゲームで鞄持たせてたからさぁ、身一つの無一文なんだよね」

私がそう言うと、変わってねえなーもー なんて言ってくるけど、ねえ、それどういう意味?

「俺のケータイ貸そっか?」
「番号なんて覚えてないよ」
「つーか生まれ育った東京で迷子って何なワケ?」
「私もわかんない」
「まあいいや、そいつら探しに行くぜ」
「えいえい」
「おー」

さて発車、という時のことだ。
私の乗っているリアカーが突然動かなくなり、漕ぎ始めていた和成がズッコケた。
え、なにごと?
衝撃を感じて後ろへ振り向くと、なんだか、すごーくでっかい人がいた。
眼鏡でタレ目で、手にテーピングをした、和成とおんなじ制服を着た男の子。
転んだ和成は起き上がってこちらを見るなり叫び出した。

「ちょ、真ちゃん!いきなり引っ張るとか危ないっしょ!!」

しんちゃん。
と呼ばれたでかい人は、眉をしかめて眼鏡をくいっと上げた。
なんだよしんちゃん、すげーインテリっぽい。

「全く、ふざけているのだよ。なにがえいえいおーだ、置いて行く気か」
「ごーめん」
「許さん」

そんでなにイチャイチャしてんの。
あ、ちがう?

「あ、あのー」
「ん?何なのだよ」
「ぶっ」
「ちょ、なまえ何噴き出し…ブフッ」

なのだよ?なのだよって言った?
いま、NANODAYOって。
まじかよ。マンガか。

「ご、ごめん、あの、うん。君は和成のお友達?」
「フン、まあ厳密には違うが、似たようなものなのだよ」
「真ちゃん酷い〜」
「うるさい。で、お前は高尾の何なのだよ」
「ブフッ」
「ちょっなまえやめ」
「いや、うんごめん、えっとね、和成のハトコのみょうじなまえです、よろしく。君がこのリアカーの主だったの?」
「ヌシって…まぁ、そうだな。それと君ではない、俺の名は緑間だ」
「緑間のしんちゃんね」
「高尾!」
「えっ俺?」

なんて言いながらもリアカーに乗ってくるしんちゃんは何だか可愛いね、でかいくせに。
でかいのに可愛いとか健ちゃんみたい。
健ちゃんはこんな変な喋り方しないけど。
ところで、腕時計を見てみたら、迷子になってからもう三十分も経ってたんだけど、そろそろ不安になってきたよ。
ていうか皆に会いたくなってきたよ。
心配されてんのかな、いやされてなかったら泣くなあ、なーんて。
てかもう、ほんと、皆に会いたい。
ヤバイ、寂しい、心細い。
ごめんねザキ、じゃんけん連続で負けたら罰ゲームで鞄持ちなんて馬鹿げたこと、させるんじゃなかったよね。
それなら、今頃私の手元にはケータイがあって、財布があって、迷子になんてなっていなかったのに。
皆ごめんなさい。

「まあいっか、行くぜー」
「ちょっと待て、どこにだ」
「いやそれがさぁ、なまえってば迷子…って、ええ?ちょ、なまえ何泣いてんだよ!?」
「!? な、なんなのだよ突然」

和成がかけ始めていたペダルから足を外し、すぐさま自転車から降りてこちらへ来る。

「ご、ごめ…あの、心細くなって…」

私がそう言うと、抵抗する間も無く、私は和成の腕の中に。
え、いや、これはこれでどうなの…
ていうか私、最近ぎゅってされすぎ。
もう少し警戒して生きなきゃ。
…ていうか、うん。

「これで落ち着いた?」
「…和成」
「ん?」
「調子こきすぎ」
「え」
「貴様ごときが私を抱きしめるなぞ二万年早いわぁ!」
「ぐえっ、ちょっと何すんの」
「高尾、いくら泣き止ませるためとはいえ、今のは俺から見てもマジで無いのだよ」
「真ちゃんまでー」
「しんちゃん、いいこと言った」
「その呼び方はやめるのだよ」
「えー可愛いじゃん、しんちゃん」
「高尾ォ!」
「だからなーんで俺?」

しんちゃんをからかいながら、和成は自転車を漕いで、私は後ろのリアカーでそれを見る。
あー、これいいね。
自転車リアカー…あ、チャリアカー?

「チャリア!」
「いきなり何なのだよ」
「ぶっはっ!チャリとリアカーでチャリアカー ってこと!?ちょっウケんだけど」
「よくわかったね和成」
「なあ真ちゃん、これよくね?チャリアって呼ぼうぜ」
「高尾」
「んっ?」
「…みょうじとやらはお前と親戚で間違いないようだな、今、確信したのだよ」
「なのだよ」
「なのだよ」
「黙れ!」

そうしてしばらく漕いでいると、何やら見慣れた黒い制服の集団を見つけた。

「あっ、和成和成、いた!」
「お、どれ?あれ?」
「そーそー」
「! あれは、霧崎第一の花宮ではないか?みょうじ貴様まさか霧崎第一の生徒…」
「えっそーだよ?」
「なになに、花宮さん嫌いなの真ちゃん」
「バカめ、あれはバスケは上手いが、それ以上にとことんまで最悪な男なのだよ」

そんなに言うか。
いや別に間違ってないけどさ。
すると向こうもこちらに気が付いたようで、近付いてきた。

「どーもっす」
「誰だてめえ、その制服秀徳か?なんでなまえ連れ回してんだ、あ?」

ザキ、喧嘩腰すぎ。
ほら和成吹き出しちゃったじゃん。
ヒーヒー言ってるよ。
私もちょっと面白い、どうしよ。

「いや違うのザキ、こいつ高尾和成ってんだけど、私のハトコ。今迷子になったって言ったら一緒に探してくれてたんだよ」
「は?高尾和成って…今年の一年のか」
「ん?うんそうだよ」
「それに隣にいんの、それ緑間か」

なんでそんなに詳しいのザキ。
とか思ってたら、ああ、うん、今思い出した。
しんちゃんもとい緑間って、今年の天才一年、つまり黄瀬とおんなじアレか。
最近やけに縁あるなぁ。
学年一個下どころか学校違うのに。

「おいなまえ、戻った方がいんじゃね?」
「あ、うんそうだね。ありがとね和成、と、しんちゃん」
「その呼び方はやめるのだよ」
「もう迷子になんなよー」
「なんないよ」

リアカーを降りると、花宮が近付いてくる。
そして和成を見たかと思うと、

「世話んなったな」

なんて言って、私を引きずった。
迷子の保護者かあんたは。
まあ大差ないか、なんて、悔しいけどね。
その場を後にしながら、和成としんちゃんに手を振ると、和成は盛大に振り返してくれていた。
しんちゃん?
しんちゃんは…そっぽを向いたのだよ。
くっそ、可愛くないなぁ。



「真ちゃん」
「なんだ高尾」
「なまえのこと、気に入っちゃダメだかんなー」
「何を言っているのだよお前は」
「俺のお気に入りだから、あ れ」
「…フン、気に入るワケなど無いのだよ、あんなお前に似て生意気な女など」
「あ、言っとくけどなまえ二年だからな」
「!?」
「そんな驚くことないっしょー」
「…年上には見えないな」
「でっしょ?んまぁどっちにしろ、あげねーぜ」
「いらないのだよ」


高尾と絡ませるリク(ちひろ様)
20140216



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