海常高校の軟派達



「やあ、久しぶり」

サラサラの髪の毛。
クッキリ二重な切れ長の瞳。
すらっと背の高い好青年。
こんな知り合い、私にいたっけ?

「…誰だっけ」
「俺だよ、森山!森山由孝!」
「モリヤマさん…」

学校帰り、部活が無いので寄り道をしていた時のことだった。
駅近くのマジバで、少し遅れるという健ちゃんと康次郎を待っていたまさにその時。
なんかよく分からないけど、モリヤマとか名乗るイケメンに声をかけられた私。
え、なに。
マジでわかんない。

「去年の春にそっちと練習試合してから、俺会うたび声かけてるんだけど」

去年の春…練習試合…
会うたびに声をかけてる?
ん?…ああ、あああ!
ああ〜、うん、わかった。
この人マジで会うたび声かけてくる海常の三年生だ。

「…覚えてない?」
「うん思い出した、久しぶり!」

あれだ。
いっつも運命がどうのって言ってくるんだよね、この人。
要するにいつもナンパしてくる人。
私の人生経験上のナンパの三分の一から半分くらいは森山由孝に占められてるってくらいナンパしてくる。

「よかった。こんなところで会うなんて、やっぱり君とは運命の糸で結ばれてるみたいだ」

ほら、また運命って言った。
いやぁ、たしかにイケメンなんだけども、運命とかよくわかんないし。

「そ?」
「そうだよ!」
「えー、私運命の人に会っちゃったの?」
「物分かりがイイね、そう俺が君の…」

ああ、どうやってやり過ごそうかな。
こんなイケメンだしまあデートくらいしておけば得になるのかな、とか考えちゃうけど、いや。
それこそデートなんてしてるとこを奴らに見られたら、なんてバカにされるか分かったもんじゃない。
なんて考えていると、

「ちょ、何やってんスか!?」

何やら知らないけど、金髪ピアスのイケメンがやってきた。

「もー、センパイが放課後渋谷行こうって言い出したくせに、なんでこうすぐフラフラいなくなっちゃうんスかー!」
「運命の糸が落ちていたんだから、そりゃ拾うだろ?仕方が無い。ねっ?」
「え?うん」
「ほぅら」
「じゃないっスよ。ナンパしたいなら言ってくれれば俺も…あれ?」
「ん?」

じーっと見てくる金髪。
うわ、めっちゃかっこいい何これ。
でもなんか見覚えあるんだよなー、なんだっけ、え、マジ思い出せない。
あっ、確かさっき森山由孝がなんか言ってたな、キセとか何とか…え?キセ?

「あっ!!」
「へっ!?」
「き、黄瀬涼太だ!」

あああそうだ。黄瀬!
中学ん時からめっちゃ凄かった奴で、うん、なんかクラスの子がモデルやってるんだよとか言ってた。
あと、い◯とも出てた。
この前見たわ。増刊号でちょうど。

「今更っスか!?ってゆーかそっちは、えーと…霧崎第一のマネージャーっスよね」
「なんで知ってんの」
「森山センパイに写メ見せて貰ったことがあって」
「写メ?…ああ、初めて会った時土下座されて頼まれたんだっけ」
「あの後、そっちのレギュラーにめちゃくちゃ睨まれたんだよ、参った」
「うわぁ…」
「それで去年からずっとアタックしてるんだよ」
「センパイ、さすがにそれは無いっスよ…ところで、名前は?」
「知らない!」
「ドヤ顔しないで下さいよ!うわ、名前も知らないのにあんな自信満々にアタックしてるって…」
「教えてくれないんだ」

あ、そういや教えてないな。
それにしても、うん。
私は森山より違うところが気になるよ。

「ホンモノの黄瀬涼太かぁ、ううーん、ふむ、当たり前だけどめっちゃかっこいいね」
「そうっスか?嬉しいっス!」
「ワンコみたいだね」
「え〜なんスかそれ。あ、名前なんて言うんスか?」
「みょうじ」
「もー、下の名前!」
「ああごめん、なまえ。みょうじなまえ」
「なまえサンね、覚えたっスよ」
「まじか」
「で、森山センパイ。名前を聞くのはこうやるんスよ。わかりました?」
「お前がイヤミっぽいことはよくわかった」
「えええ〜…」

名前ばれた。
まあいいんだけどさ。
彼らのやり取りを黙って見ていると、森山がくるっとこちらを向く。

「それでなまえちゃん」
「はい」
「よかったら俺とデートしてくれませんか」

これまた直球な。

「ごめんなさい」

だからこちらも直球で返す。
いや、別に目には目を歯には歯を とかそういう意味では無いのだけれど、一つ、問題が発生してしまったから。
森山の後ろからチラッと覗いた見慣れたオールバックとアシメ。

「えっそんな、即答?」
「ごめん、今日は怖い人たちきちゃったから、その話はまた今度で」
「じゃあせめてメアド…」
「ちょっと、健ちゃんも康次郎もおっそい!」
「ちょ」
「悪い悪い」
「お詫びとしてバニラシェイク奢って」
「そこにあるシェイクだったものはなんだ?」
「アレはアレ、コレはコレ!」
「…なまえ、そいつらは誰だ」
「ん?海常高校の黄瀬くんと森山さん」
「うちのなまえに手を出さないで頂きたい」

いや、うちのってなんなの康次郎。
健ちゃんがバニラシェイクを買いに行ってしまったので、どうしていいかわからない。
ねえちょっと、黄瀬、おい、笑ってんじゃねーぞイケメンだからって許さないぞ。おい。

「それじゃ、行こうなまえ」
「あ、ちょっ」

康次郎に手を引かれてしまったので、ちょっと止まるよう言うと、明らかに面白くないです といった顔をしていた。
いやそもそも手を出された訳でもあるまい。
とりあえず、鞄からメモ帳を出して、あるものがかかれたページを破り取る。
いや、なんだか申し訳ないからね。
それを半分に折りたたんで森山に渡すと、きょとんとされた。
黄瀬のニヤニヤがイラっとくる。

「へ…?」
「さっき言ってたから、ハイ」
「え、っと…」

森山は慌ててメモを開き、固まったかと思うとまたメモを閉じて、鞄にしまい込んだ。
そして、ありがとう と言ったかと思うと、勢いよく黄瀬に抱きついていた。
黄瀬はすごく嫌そうな顔をしているけど、いやなにこれ、昼間からホモなの?

「それじゃ、健ちゃん帰ってくるし行こっか康次郎」
「ああ」
「あっ…なまえちゃん!」
「ん?」
「…か、帰ったらメールします…」

あらら。
ナンパしてくるくらいだから慣れてる人なのかと思いきや。
意外とウブなんだね森山。

「うん、まってる。じゃーね」

その間、康次郎は珍しく無表情を崩してすんごく嫌そうな顔をしていたけど、まあ、一応私はフリーなわけで、何をしても怒られるアレはないよね、と。
…悪女っぽいなぁふふふ。
なんてね、冗談。
悪女になれるほどモテてませんよっと。



「…なあ黄瀬」
「なんスか」
「彼女、素敵だったな」
「まぁ少なくともセンパイよりは男らしい人ッスね」
「彼女になら抱かれてもいい…」
「気持ち悪いッス、センパイ」


よしたかわいい。
20140216



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