突然現れて、『さぁ私を信用してください』なんて容易いことがあるわけない。
ただでさえ他人の心の内側に入り込むのって難しいのに、たくさん裏切られてきた彼だからなおさら。
自分に大層なことができるとは思わないけど、
たとえば、今何をしているのか聞いたら教えてもらえて、
相談に乗れるくらいの立場に、いつかなれたらいいなぁ。
ルルーシュは頭の良い人だから、きっと私なんかよりもずっと、
これからどうすべきかに知略を巡らせているのだろう。
既にいくつか対策を講じている可能性も高い。
数日が経ったけど、私とは今まで通り教室で顔を合わせているだけだ。
困っていたらフォローしようと身構えていたけど、
ルルーシュの演技は完璧で、助けに入りようがなかった。
私の手に及ばぬところで、事態は動いていた。
ルルーシュがリヴァルと一緒に学校を抜け出した次の日、
ニュースで、シンジュクでの毒ガステロ事件が報道された。
でも、それだけでは詳細も、私の知るシナリオとの変更点もわからない。
だから私はそっとルルーシュに近づいて、視線を交わすことで訴えた。
彼は了解して、すれ違いざまで耳元に囁き、
昼休みに、クラブハウス内のホールに連れられた。
ルルーシュの部屋じゃないのが残念。
これってアニメだとカレンが呼びだされたところ?
ここに生徒会のメンバーが集まるのは今日の放課後だったかな。
そういえば、今回はカレンと学校で接触してないのかな。する必要がないのかな。
「昨日、ギアスを手に入れたんだよね」
ルルーシュが肯定したから、「じゃあ私にも掛けて」とねだった。
彼に不利な条件ではないはずである。
けれど、奇怪なものを見る目で見られた。
「正気なのか」
「うん。だって私はなによりもルルーシュの信用が欲しいの。
言葉をどれだけ並べたって嘘っぽいでしょう?
ギアスってきっと恐ろしい力だけど、だからこそ意味がある。
それに、今掛かっておけば事故も起きないし、私も変な勘ぐりをしなくてすむから、
命令をしてもらうのは私にとってマイナスばかりじゃない」
ルルーシュなら、既に効率的な命令を考えていると思う。
尊厳もプライドも、ルルーシュになら踏みにじられてもいい。
自分じゃどうにもできない深層意識を問われたって、
私は私のルルーシュへの想いを信じている。
わかった、と頷いたルルーシュの
麗しい紫の右の瞳が紅に染まり、口を開いたところで、意識が途切れた。
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――私が忠誠を誓うのは、ルルーシュ。
――アッシュフォード学園生徒会副会長のルルーシュ・ランペルージであり、ブリタニア帝国第11皇子かつ第99代唯一皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであり、黒の騎士団の創始者ゼロ。
――ルルーシュのためなら、なんでもできるわ。ルルーシュが望むなら、すべてを捨ててもいい。なにもいらない。ルルーシュが修羅の道を歩むというのなら、どこまでも付き従う。役に立てるなら全力を尽くす。ルルーシュの未来が少しでも明るいように、ルルーシュに少しでも安寧が訪れるように。ルルーシュの敵は私の敵。この身が焼け焦げようとも、ルルーシュの望むすべて手に入れてみせる。ルルーシュの罪を私も背負いたい。夢なら覚めないでほしい。私を使ってほしい。ルルーシュにとって優しい世界がほしい。ルルーシュに幸せになってほしい。そのためならどんなことでも厭わない。非力でも愚鈍でも、口が裂けても秘密だけは守る。ルルーシュに不利益になるくらいなら命を絶つ。絶対に裏切ったりしない。ルルーシュに降り注ぐ火の粉の盾になりたい。何が起きてもルルーシュを恨んだりしない。私の魔王様。魔女にも剣にもなれないけれど、卑しい奴隷をどうか傍に置いてほしい。
――『なぜそこまで俺に肩入れする?』
――大好きなの。初めて会ったときから! "誰か、誰でもいいからルルーシュを幸せにして"とずっと思っていた。世界が違えばただの危ない子だけど、同じ世界に立てば命だって懸けられるの! 頭脳明晰なとこも、綺麗な顔立ちも、アメジストの瞳も、漆黒の髪も、全部愛しい。世界を動かすほどの行動力と意志の強さも、責任感が強くて、全部自分でどうにかしようとしちゃうとこも、してもいい言い訳をしないところも、身内に甘くてそこで妹優先しちゃうか!ってくらいどうしようもないシスコンなところも、仕方ないって思えるくらい好きだし、イレギュラーに弱いところも、体力を使うのは苦手なところも、ちょっとナルシスト入ってるとこも、ゼロの衣装とポージングのセンスも、女装似合いそうなとこも、授業中の寝方が上手いとこも、女の子からの好意ににぶいとこも、かわいくてかわいくて、いとしくてしょうがない!生徒会長に振り回されているところも、会話してて伝わる賢さも、それを鼻にかけないところも、さりげない気配りや優しさも ――
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「もうやめろっ!」
次に意識が繋がったとき、懇願の叫びと共に私は強く肩を揺さぶられていた。
怒声かと思いきや、至近距離で見たルルーシュは顔を真っ赤にしていて、涙目だった。
壮絶にかわいい……とか思ってる場合じゃなくて、徐々に状況を思い出す。
何か、絶対遵守の命令をされたはずだ。
「えーっと、私、何かまずいことした?」
姿勢は普通に直立のままだったし、ルルーシュの着衣が乱れているわけでもないから、
せいぜい何か言ったくらいだと思うんだけど、
肩が痛いことから、彼は何度も私を制止していたみたいだし、一体何が起こったんだろう。
とんでもないことでも口走ったのかな?
やっぱり、自分が認識できないことが事が起こったっていろんな意味で怖い。
ルルーシュは黙ったまま首肯したので、さらに不安になる。
「どんな命令をしたの?」
「……『固有名詞を出して、自らの忠誠心を語れ』と」
やった、ちゃんと応えてくれた! って場合じゃなくて、――なるほど。
私がたとえばブリタニアの手の者だったら、シャルル皇帝への忠誠心でも語ったのだろう。
ついでに相手の誠実さや人柄、ともすれば組織の構造までわかるというわけだ。
予想するまでもなく、私はルルーシュへの忠誠を語ったに違いない。
この様子だと、告白じみたことをしてしまったんだと思う。
ルルーシュへの愛を語る自分が容易に想像できて、怖い。
ど、どこまで言ったんだろう。
赤くなっていいのか青くなっていいのかわからないくらい、死ぬほど恥ずかしい。
けれど、その恥ずかしさも、愛の試練だ。
その価値があるのならば、後悔はしない。
お酒に酔ったと思えばありえない話じゃないし、
私の意思の外で起こったことなのだから、私のせいではない……はず。
とりあえず頬が熱いのはおさまりそうにない。
「それで、信用はしてもらえた……かな?」
気まずくて、小首を傾げてみたけど、ルルーシュから返事はない。
うん、可愛い子ぶるのには無理があった。
そんな無茶でもしないと間が持たなかったんだよ!
それにしてもまったく、何を言ったんだ私は。
"語れ"なんて命令されたら、止められなければ、三日三晩は語れる自信がある。
ドン引きされて距離を置かれたら本末転倒すぎて涙が止まらない。
「あぁ、わかった、信用しよう」
「本当!? よかったーっ!」
それでも、ルルーシュが肯定の返事をくれたから、オールオッケーだと思えてしまう。
覚えていないんだから、忘れてしまえ。
この恥ずかしさはルルーシュに預けてしまって、
安心して次の事項に移れる。
「嘘をついていないことがわかってもらえたなら、どうか次は覚悟を試して?
現段階で嘘をついていなくても、意志が弱ければ足手まといだもの」
現代でただの高校生で大怪我をしたこともないような女が、
いざというときの覚悟があるか、たしかめてほしい。
ちょっとこれは私にとっても冒険だ。
この愛という感情は、まさか道徳や防衛本能なんてものに負けないよねぇ?
「覚悟を見るなら、正気のときのほうがいいよね。
ギアスじゃなくても、私、あなたの命令にならなんでも従うけど」
とりあえず、飛び降りろと言われたら飛び降りるとか、そんな感じ。
いざというとき、骨折くらいの怪我は躊躇しないようになりたいなぁ。
度胸はあるほうがいい。私はいざというとき彼の捨て駒になりたいのだから。
「そこまでする必要はない」
「えー、でも」
「いいんだ。わかったから」
「うーん……ルルーシュがそう言うなら。
じゃあそれは行動で示せるよう頑張るとして、とりあえず、
昨日起こったことと、今後の計画について教えてくれる?」