20.あなたが幸せになれない世界なら、そんなにも間違った世界なら、


ギアスを手に入れたといっても、私の役割に劇的な変化は起こっていない。
ルルーシュが使うなと言えば使わないつもりだったが、そもそも使う機会がないのだ。
ギアスユーザーの敵などがいなければ特に活躍のしようがない。
これがあれば嚮団にも対抗できると思うのだけど、
現時点ではV.V.に存在を認識される可能性のほうが厄介で、積極的に嚮団を壊す利点はない。

私のギアスの詳細については、
今後のためにとルルーシュがひととおりの実験に協力してくれたおかげで多く判明した。

まとめると「自分をターゲットに含むギアスを」「いったん完全に無効化して」「1回分を自分のものとして」「ギアスをかけた本人に対してだけ」「自由に行使することができる」ギアスのようだ。

箇条書きにすると、
・ルルーシュが私にギアスをかけられる範囲/条件ならすべて跳ね返すことができる。
(私のギアスの限界はわからなかった)
・ギアスをかけられそうになってからでも跳ね返さないことを選択できる。跳ね返しそうになってからギアスをオフにすればいい。
(ただしこれは暴走したら制御できなくなるんだろうなぁ)
・ルルーシュのギアスを跳ね返すとき、下す命令は私が自由に決めることができる。
・ルルーシュが私を含む複数人にギアスをかけようとしたときも、それを跳ね返してルルーシュに命令することができる。このときルルーシュは私にも私以外の誰かにも命令していない。
・ルルーシュが私以外の誰かにギアスをかけようとしたとき、私が横から跳ね返すようなことはできない。跳ね返すにはギアスをかけられる当事者にならなきゃいけないってことだ。
・私がルルーシュのギアスを跳ね返したら、ルルーシュにしか命令できない。ルルーシュのギアスを借りたからといってルルーシュ以外の人に命令することはできない。
という感じ。

ルルーシュによると、「複数のギアスを同時に跳ね返すことができるか」「真正面以外からはどうか」などこれ以外にも検証したいことはあるらしいが、今はサンプルが足りなくい。
また状況が変わったらわかるだろう。
今は来るべきときに備えるのみだ。

反逆は順調で、成るべきことは成り、恣意的に早送りした出来事は早まっていった。
たとえばディートハルトは反逆者ゼロに陶酔して黒の騎士団に入団したし、
たとえばロイドさんに依頼していたゼロ/ルルーシュ専用のKMF・蜃気楼の試作機が出来た。
持ち駒は順調に数を増やしている。

私個人としては、ギアスを手に入れたことよりも、
ギアスキャンセラーの被験がなくなって時間ができたことのほうが変化となった。
最近もっぱらナナリーのリハビリの手伝いに時間を割いている。

なにしろルルーシュにとって一番大切なものだ。
本当はルルーシュが自分で尽くしたいのだろうけど、代わりのいない御身だから常には難しい。
(クララならぬ)ナナリーが立った!という大事なイベントには居合わせていたのでまあいいだろう。

生徒会の人とかナナリーの級友とかも、言えばきっと協力したがるのと思うのだけど、
好ましい仲間だからこそ、歯を食いしばって努力してるところってあまりみられたくないものだと思う。
咲世子さんもいるのだが、彼女には彼女の仕事がある。C.C.に期待するのは無謀だ。
ひとりでさせるには可哀想っていうことで、
水面下という点では私くらいの距離感がちょうどいいのかもしれない。
夕方から夜にかけて、彼らの家に入り浸って時間を共有している。
ナナリーの心情の変化はしっかり把握しておきたかったので、話す機会を得たことはありがたかった。

今のところ、ナナリーは杖を常備しつつ、基本は車椅子で生活している。
筋肉の衰えが問題なので、まだ杖があってもふらついて危ないし、長時間はきついのだ。
ルルーシュにより、クラブハウスの一室にはリハビリ用の手すりが設置された。
静かな音楽をかけたその部屋で、両側の手すりにつかまりながら歩くナナリーを励ましてゴールを示す。

頼まれたからにはリハビリについて一応病院で習ったり、自分で調べたりして勉強した。
無理はさせない範囲で、気を紛らわせるために話題を振ったり、休憩をこまめに取りつつ、伸びた成果を賞讃する。
苦しそうな顔をしても弱音は吐かない。芯の強い子だ。
濃紺の瞳のしたたかさにはときどき驚かされる。
これだけ劇的な変化があれば内面にも変化が起こるか。
きっと駆けて行きたい場所がたくさんあって、大切な人の隣に並んで歩めるようになりたいんだ。

秋に行われる生徒会主催のダンスパーティはハロウィンも兼ねているらしく、
仮装も取り入れて華やかなイベントになりそうだ。
それに参加することがナナリーにとって一つの目標であり節目というわけだ。
もちろん無理のない日程に設定されていて、足の自由を実感するには良い舞台だろう。
今から楽しみにしているのを見ると私も嬉しい。
だって、ルルーシュがナナリーと踊ったら、その光景を考えるだけで目が眩む。彼の喜びを想ったら。

リハビリ中にせっかく音楽をかけるなら舞踏曲にしようかとも思ったんだけど、
きつい思い出と一緒になって嫌いになったら困るから、無関係の曲だ。
ダンスには自信がなくて私は教えられないのだけど、
まぁ、最後のダンスレッスンはルルーシュが手ずからするのが美味しいと思うし、
私はナナリーが問題なく運動できるところまで付き合うことにする。

「レナさんはお兄様が好きなんですか?」

ナナリーとはリハビリの前後や休憩中にお茶をしたり、女同士かなり打ち解けた……と思う。
私の思惑もあり、かなり内面に踏み込んだ話もしていた。

「うん」

その質問に対して否定の解などありえなかった。
ナナリーは驚いた様子なく続けた。

「私もお兄様が大好きです。……レナさん、今お兄様がしているのは危ないことですか?」

初対面のときの言動から、ルルーシュの秘密を私が知っているというのはすっかりナナリーにばれている。
秘密の内容自体は本人から聞く日まで我慢するということにしたものの、心配の気持ちは抑えきれないらしい。

「さぁ……。ルルーシュは勝算を切り開くことができる人だから、どっちともつかないんじゃないかな」

ルルーシュの場合、何もしないで怯え耐えいるのと、
現在の行動でどちらが致死率が高いかは判断できない。
リスクを冒して希望を志せるルルーシュがいとしい。

「周囲の状況によっても変わると思うから、そのときが来たらぜひ協力してあげてね」
「はい!」






「自己犠牲するな、自分の幸せを第一に考えろ か。お笑いだな。
お前はそれをできていないじゃないか。
ルルーシュにとってのナナリーがお前にとってのルルーシュというだけだろう」

いつか、C.C.が笑った。

「そうね。全部エゴだわ。私にとってこの世界の中心はルルーシュだもの。
ルルーシュが幸せなら世界が滅んでもかまわない。
ただ、世界が滅んで幸せになるって難しいと思うから、私は手を尽くすの」

いくらでも変えてみせる。


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