14.愛したぶんだけ愛されたいなんて言わない。けれど、愛したぶんだけ幸せでありたい。


「スザクのこと、ルルーシュはどうしたい?」

シンジュクゲットーで原作とは違うルートを辿ったはずのスザクが、
特派に引き込まれたことは予定の範疇外だった。
私はそれが、役割が『主人公』に近いゆえの修正力だと感じた。
引力の強い運命に巻き込まれていくんだとしたら、きっとスザクは強い運命の持ち主だ。主人公補正ともいう。
アニメで何度ルルーシュの前に立ちはだかったかわからないしね。
他にどのような修正力が働くのか、不確定要素は怖い。

特派はクロヴィス殿下の勢力下にあり、"殿下が特派をお嫌いのため"、黒の騎士団が台頭しても出動命令はない。
このままくすぶらせておいても普通は何事もなさそうなものだけど、
名誉ブリタニア人が勝手にナイトメアのパイロットになった幸運を侮ってはいけない。
ユーフェミア皇女殿下が副総督になる予定はないが、公務等で今後エリア11に来ないとは限らない。
ルルーシュがそれを把握することはできるが、拒否が難しいこともあるかもしれない。
そこで運命の出会いなんて果たしてしまえば無視出来ない存在となる。
また想定外の事態が起こるかもしれない、見えないとところでのし上がってくるかもしれない。
方針は早いうちに決めておいたほうがいい。

「どうしたい、とは?」
「このままでいいのかってこと。想定外の危険を孕んだ存在だよね。
現状維持で兵卒にしておいてもいいけど、
敵に回すとやっかいだから、今のうちに潰しておくのもありだと思う。
境遇を落とすとか、僻地に飛ばすとかもありなんだけど、
何をしでかしてのし上がってくるかわからないから、殺した方が確実」

遠ざけるほど後でラスボス化して帰ってきそうだ。
悪い例を挙げれば、ルルーシュは顔を歪めた。
腫れ物として放置したかったのかもしれない。
目を背けたいと思われる領域にはぐんぐん踏み込むよ!

スザクはルルーシュにとって微妙な存在だ。
さんざん苦しめられ、憎んだこともあっただろうけど、
今のところルルーシュの敵に回っておらず、幼なじみで友人だし、
平行世界では最期にゼロの名と全てを委ねた相手でもある。
支配のギアスをかけるのも感情が邪魔しそうだし、
一思いに殺してしまうには決定打が足りないと感じるかもしれない。
ルルーシュがそれを選ぶなら、それでもいい。

修正力に足を取られないように、
全てを巻き込むほどの運命をルルーシュが作り出すべきだ。
手つかずの領域はないほうがいい。

「殺さないなら常に把握できるといいね。
監視をつけるか、早くに味方に加えておくのがいいかもしれないね。
あの身体能力は護衛になるし、優秀なパイロットとしてもあなたの剣になるでしょう。
「スザクは俺と思想が違う。賛同するとは思えないな」

ゼロとして誘って断られているもんね。

「特派ごと味方に引き込んでしまうのを目指すのもありで、
説得ができれば黒の騎士団を任せる道もあるかもしれないし、
スザクの"内側から改革"やナイトオブワンになるの応援しちゃってもいい」

どれにもそれぞれ困難と利害がつきまとうし、
最終的にどんな形を理想とするかにもよるだろう。
ただ、今のルルーシュには真の味方は少ない。
優秀な駒が増えるなら、それもいいと思う。

「すぐに全てを明かせとは言わないよ。危険だと思うし。
でも少しずつ、対話によって相互理解することは可能だと思うの。
監視っていうか現状を伺える程度に接点を持てればいいんだけど。
ルルーシュとスザクは再会しないのかな。意外と探してるかもしれないよ?」

メル友とかになったらいいんじゃない くらいに思ってたので、
次のルルーシュの発案には驚いた。

「アッシュフォード学園に通わせるか」
「それは……」

解決策ではないけれど、試しても悪くないかもしれない手だ。
スザクが学園にいて生徒会にいる図は、ルルーシュにとって自然なのかもしれない。
生徒会がルルーシュにとって居心地のよい空間であるなら好ましい。
編入させること自体はどうにでもなるだろうけれどなんとなく、ルルーシュにしては珍しい手だと思った。
敵になりうる相手を身近に置くのは危険もある。リスクに見合うメリットが、私にはわからなかった。

「条件は満たしているだろう? 
アイツは死にたがりだからな、学校生活の平和に感化されてくれればいいんだが」
「ルルーシュがそんなこと言うの、珍しい」
「学園ならレナが手を出せるからな。人を同調させるのは得意だろう?
スザクのことはお前に任せる。監視と相互理解、自分で言ったからにはやってみせろ。その結果で判断する」
「っ……! まっ、かせて!」

信頼されていることの歓喜に打ち震えた。
お気に入りの『イエス・ユア・マジェスティ』の返事も忘れる。

「きっと実現してみせる! あなたたち二人いれば、できないことなんてないらしいから!」

せめて迷いくらいは与えるてみせるとか、そんな妥協案は出さなかった。
任せられた重みと喜びが、全力を約束した。
ついでに相互理解の第一歩として、
スザクが親を殺したのはルルーシュとナナリーのためだったと説明した。
プライバシー権なんてルルーシュにしかない。
ルルーシュはそれに対して驚いていたけど、味方にするという方針は強まったみたいだ。

スザクを学園に通わせるのは特派内の決定ということにした。
軍全体に命令を下してもいいのだが、おおがかりになってしまう。
それに、早い段階でルルーシュ専用のナイトメア・蜃気楼を作らせるには特派を仲間にするのがてっとり早い。クロヴィスの権力下でありながら別管轄という不定分子でもある。

そこでロイドさん……ロイド・アスプルンドにギアスをかけるつもりだったのだが、
それ以前の、話し合いでの引き抜きがあっさり成功してしまった。
脅されるくらいなら、本人は研究できればいいそうだ。
そういえばアニメではゼロ・レクイエムの真相を知っていた数少ない一人だったなぁ。
秘密は守れる人だろう。まだスザクには内緒だ。
予算と実戦機会を取引材料とし、密かにルルーシュやジェレミア卿、カレンの機体を作らせることとなった。
完全には信用できないが、ギブアンドテイクの成り立つ相手だ。

最近出動命令がなくて暇だし、一般常識でも身につけておいで。
なんて言って、スザクを言いくるめた。


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